第37話 教えて、佳織せんせい!

「おい……、どうした?」


 教えてくれると言いながらも、なぜか耳を赤くして動かなくなった佳織に声を掛ける。

 というのに何も反応をしないので、佳織のいるクローゼット前まで近づいてさらに声を掛けてみる。


「何かあったのか?」


 横から覗き込もうとした瞬間、俺が側に来たことに気付いたのだろうか。


「――な、なんでもないわよ!?」


 手に持っていた何かをパッと後ろ手に隠して、慌てたようになんでもないと言い張るんだが、怪しいことこの上ない。

 ってか対処法を教えてくれるんじゃなかったのかよ。生理用品でも取りに行ったのかと思ったが、違うのか?


「いや……、それって生理になったときに使うやつじゃねーのか?」


 なんで隠してんだよと言外に含ませながらも、後ろに隠したであろう物を指さして聞いてみると。


「え? ……あ、……うん。……そうなんだけど」


 しぶしぶと言った感じで後ろ手に隠したものを俺に手渡してきた。

 受け取ったソレは案の定想像通りだったが、生憎と俺も今まで生理用品なんてまじまじと手に取って見たことなどない。

 手のひらに乗るサイズのビニールで梱包されている。テープが付いていてここから開くようになっているようだ。

 躊躇せずにそのテープを開くと、折りたたまれた状態から三倍から四倍程度の大きさに広がった。


「ふむ……」


 じっくりと観察するが、なんというか、ちっちゃい紙おむつみたいな印象だ。

 おむつと違って、本体を固定する羽は端ではなく真ん中についているが。

 とりあえずこの真ん中部分を当てればいいんだろうかと、生理用品のテレビCMを思い浮かべながら考える。


「なぁ佳織。……これどうやって付けるんだ?」


 なんとなくはわかるが、だからと言って適当につけて失敗するわけにもいかない。

 上下が逆で漏れましたとかになれば目も当てられない。

 そう思って佳織へと視線を戻すのだが、当の本人は何を恥ずかしがっているのか、顔を赤くして俯いてプルプル震えているだけだ。


「……ビニールはがしたら、……パンツの中につけて、羽を外側に畳んで……、固定すればいいわよ」


「前後の向きとかはある?」


 俺の言葉に、ちらりと手の中にあるモノに視線を向け。


「……それはどっちでもいいわよ」


 ポツリと呟いた。

 ……ふむ。なんとかなるかな。いやしかし、実際に装着したところを見てみたい気もする。失敗はしたくないし。

 そういえば佳織は予備用とか言って、新品のパンツ持ってたよな。ちょっとそれでつけ方を教えてもらうか。


「なぁ、佳織のパンツでちょっとつけるところ見せてくんない?」


「――はぁっ!?」


 何気に言った俺の言葉に一瞬固まったかと思うと、「何言ってんのコイツ」みたいな形相で佳織が反応する。


「じ……、自分のパンツで試せばいいでしょう!?」


 むしろお前が何言ってんだ。

 ここは佳織んだぞ。俺の替えのパンツなんぞあるわけねーだろ。


「俺にここで脱げと……」


「な、なんでそうなるのよ!?」


「前に風呂で散々見ただろうに……」


「だから違うって言ってるでしょ!!」


 そんなに見たいのかと呆れたように言ってやると、益々ムキになって反応する佳織。

 やっぱり佳織はこうでなくちゃ面白くない。


「とにかく! いくつかあげるから、今からアンタの家に行くわよ!」


 んん? 俺ん家に来る? いや別に俺はつけ方さえ教えてもらえればいいんだが。

 ……もしかしてあれか。一回付けるともう一度付けられないとか?

 よくよく考えてみると、ビニールはがしてパンツに張り付けられるように粘着テープみたいになってんのか。


「わかったよ……」


 もう外は暗くなっているが、徒歩三十秒くらいなので問題ない。

 俺はいくつか渡された生理用ナプキンを手に、佳織の家を出るのだった。




「さぁ用意したぞ」


 俺はクローゼットから自分のパンツを取り出して、佳織の目の前にナプキンと共に並べる。


「というかもう自分でやりなさいよ。それは前後どっちでもいいんだから」


 さぁこいと意気込んでみたものの、佳織に出ばなをくじかれる。

 とは言え実際にモノを用意してみると、もう自分でできそうな気がしているのも事実だ。


「うぬぅ」


 だからと言って自分でできそうだとは言わない。あくまでもしぶしぶと言った雰囲気を醸し出し、ゆっくりとパンツとナプキンを手に取る。

 パンツをひっくり返して布地を広げ、開封済みのナプキンのビニールをはがして装着する。

 そして羽をたためば固定される。これで完璧だな。


「まぁいいんじゃない。……あと、パンツを膝くらいまで穿いて、ナプキン付ける方法もあるよ」


 しげしげと眺めながら満足していると、正面にいる佳織から上から目線な言葉が飛んでくる。

 ってかそんなやり方もあるなら先に言えよ。


「明日またいろいろ買い物に行こっか」


「……わかった」


 半ば諦めの境地に達しながらも、まだ足りないものがあるのかとため息が出る。


「生理用のパンツとかも売ってるしね」


「へぇ」


「今日はお風呂入ったらそのパンツ穿きなさいよ」


 防御力の高くなった俺のパンツを指さして念を押してくる佳織。

 それくらいわかっとるわい。可能性はゼロじゃないんだから、現実逃避して普通のパンツを装備して大惨事になんぞしたくない。


「わかってるよ」


「じゃあ、また明日来るから」


 俺の家にまで来た意味があったのかどうかわからないが、それだけ言うと佳織は自分の家へと帰って行った。

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