第36話 準備はしっかりしないとね
「「――はい?」」
おばさんの言葉に思わず佳織とセリフが
なんだって? 生理痛? ……何それ?
えーっと、生理の時にくる痛みってやつ? 俺に? ……ええぇ?
「えーっと?」
「……え? えっ?」
佳織は俺とおばさんの顔を交互に見回している。
「あれ? 違うのかな? ……前の生理はいつだった?」
いやいや、いつも何も、生理になんぞなったことありませんが。一月ほど前まで男だ――ってそろそろ一ヶ月なのか。そういうことなのか……?
待て待て、まだ慌てる時間じゃない。落ち着くんだ俺。
確かに俺が女の子になってもうすぐ一ヶ月くらいだ。生理の周期も確か一ヶ月なんじゃなかったか?
うん、一応つじつまは合ってるよな。
……しかしだ。本当にそうなのかまだ確証があるわけじゃない。風邪という可能性も残されているはずだ。
とりあえず狼狽えているだけではいかん。それっぽい返事をしておかなければ。
「あー……、ちょうど一ヶ月経つかも?」
「えっ? あっ、そうなの?」
何とか絞り出した俺の言葉に、真面目に驚いて俺に見開いた目を向けて来る佳織。
っつーか真に受けてんじゃねーよ。お前もよく知ってるだろうが。俺がこの姿になってどれくらい経ってるのか。
「じゃあやっぱり生理なのかもね? 圭ちゃんは事前準備して付けとく方?」
え? 事前準備? 何ソレ? ちょっと待って……。生理かもしれないっていう、まったく予想外のことを言われた上にさらに何ですか。
生理ってあれでしょ? 要するに血が出てくるんですよね?
――って俺それしか知らねえ!
重要な事実に気が付いた俺は、助けを求めるべく隣に座る佳織へと視線を向ける。
が、佳織自身も狼狽えていたようで、おばさんと俺へと交互にさまよわせていた視線がちょうどぶつかった。
「……どうなの?」
知るか!
むしろ俺が知りたいわ!
困惑顔で呟いた佳織にツッコみを入れるが、かろうじて口から出るのを阻止できたと思う。
しかしそれはそれで、多少は冷静になれたかもしれない。
えーっと、血が出てくるんだから、どうやるかは知らんが準備くらいはしておいたほうがいいんじゃないかとは思う。
やり方はあとで佳織にでも聞けばいいだろ。……なんとかなるはずだ。
「……うん。準備はしておくほう……かな?」
準備とは何をするのかよくわかってないが、きっとする人もいるんだろう。
それが少数なのか大多数なのかはともかく、皆無ということはないだろう。
「……そうなんだ?」
まだ困惑が抜けないのか、変な疑問形で俺の答えに感心する佳織。
いや待て、何を素直に感心してんだコイツは。
くそっ、なんか今日は妙にイライラするな……。八つ当たり気味に佳織を睨みつけると、ようやく状況が飲み込めてきたのか、困惑顔が焦り顔に変わってくる。
「そうなのねぇ、まぁ、体調悪そうなら安静にしときなさいな」
今になってアタフタしだす佳織に気付いていないのか、「ごちそうさま」と言っておばさんはそのまま空いた食器を片付けだした。
「ご、ごちそうさまでした!」
佳織も慌てながらおばさんと一緒になって片付けている。
食卓からは逃げるように佳織の部屋へと引っ込むことが多かったからか、これはこれで佳織の新たな一面が見えて新鮮な気分だ。
単純にまだ混乱から抜けていないだけかもしれんが。
「ごちそうさまでした」
俺もこれ以上食えそうにないので、食器を片付けようと立ち上がるが。
「あ、アンタは部屋に戻って休んでなさい!」
珍しく気遣ってくれたのか、俺の分の片付けもやってくれるようだ。
んじゃまぁお言葉に甘えますかね。
「あー、わかった」
先に佳織の部屋へと戻るのだった。
部屋でゴロゴロしていると、ドタドタと階段を駆け上がる音が響いてきた。
案の定その音は、俺がいる佳織の部屋へとだんだんと近づいてきたかと思うと、そのまま勢いよく扉が開かれて部屋の主が姿を現す。
「ちょっと、大丈夫!?」
血相を変えているが、何をそんなに慌ててるんだ?
俺もちょっと部屋でゴロゴロしながら考えていたんだが、まぁわりと落ち着いてきたぞ。
女になったんだから当たり前っちゃ当たり前だよな。……いやまだ確定したわけじゃないが、少なくとも異常現象というわけじゃないんだ。
「なにが?」
だから何も問題はないのだ。
「――えっ? いや、だって……、その……、困ってるんじゃないかと思って……」
困惑顔で告げる佳織だったが、確かにそうだった。体調不良の原因がある程度わかったからと言って、対処法はまだ不明なままだ。
「ああ、うん。それは確かに、どうすりゃいいか佳織に聞こうと思ってた」
「そ、そう……」
あっさり答える俺に、なんとも拍子抜けしたとでも言わんばかりの表情になっている。
「だから対処法を教えてくれ」
「な、何よ! 人が心配して急いで来てみたら……、いつも通りじゃないの……」
心配して損したと言わんばかりに肩を怒らせるが、それも長く続かなかったようで、語尾が小さくなる佳織。
「はぁ……。わかったわよ」
大きくため息をつくと、俺の横を通り過ぎて後ろのクローゼットを開けると、奥の方から何かをゴソゴソと取り出し。
耳まで真っ赤になってその場で硬直するのだった。
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