過去短編集

姫宮未調

癒姫悲恋譚

とある国に国を左右するほどの力を持った双子の姫君がいました。

一人は戦を勝利に導く姉の戦姫、もう一人は万病を癒す妹の癒姫。

二人は人間を守るために降臨した姫神。

故に限られた人間にしか知られていませんでした。

このお話の主人公は妹姫。

彼女の報われぬ悲恋の物語。


妹姫には相愛の男性がいました。

お互いの素性を知らぬまま会瀬は増え、ついには結婚の約束までしてしまいます。

妹姫は言いました。

『何があろうとも私を信じ、愛し続けてくださいますか? 』

何も知らない彼は二つ返事をしてしまいます。

彼は素直で優しすぎる人でした。

でも、妹姫は彼のことを知っていました。

それでも一緒に居たいと願ったのです。

彼の性格が悲劇を生むなどとは思わずに……。


彼は騎士団の最下方の所属でした。

この国は戦が絶えませんでした。

姉姫の活躍により勝利を重ねてはいました。

しかし、死傷者を最低限にするくらいしか出来ないのです。

姉姫は能力を使うわけにはいかず、実力で騎士団の先陣をきり、勝利していたのです。

男装し、性別を偽り続けて……。

そんなある日、ついに彼が徴兵されることになりました。

足りなければ実践経験のない国民も駆り出される時代。

妹姫は言いました。

『お帰りをお待ちしております』

彼は言いました。

『無事に戻れたら結婚してください』

妹姫は信じて待ち続けました。


少し長引いた戦は終わりました。

けれど、彼は重症を負っていました。

それでも、彼女に会うために重いからだを引き摺り、帰還します。

彼は言いました。

『最後に貴女に会いたかった、約束を違えて申し訳無い』

そのまま彼女の腕で今にも絶える瞬間、妹姫は彼を失いたくないがために能力を発動させてしまいます。

意識の遠退き掛けた彼の口へ指を切って血を飲ませました。

効果はすぐに出ました。

あっという間に彼に生気が宿り、瞳を開きます。

彼は言いました。

『これは一体……』

妹姫は言いました。

『貴方のために私の力を使いました』

彼は妹姫の愛情に感謝し、家族のもとへ向かいます。

妹姫は言いました。

『くれぐれも他言なきよう……』

彼は、これで結婚出来ると浮かれているためにその言葉の意味を理解できていませんでした。

そして、最初の悲劇は起こります。


彼が家に戻ると、直属の上官が神妙な面持ちで彼の家族と話しているところでした。

彼の重症ぶりではどこかで死んでいるかもしれないと話しているのでしょう。

彼は慌てて駆け寄ります。

直属の上官がそこにいなければ話さずに済んだかもしれません。

しかし……。

彼の家族と直属の上官は元気な彼を見て、驚きます 。

妹姫の話を切り出す彼 。

何も知らない彼らには脅威以外、何物でもありませんでした 。

結婚の話をすると青ざめ、魔女に惑わされたのだと騒ぎます 。

町中で松明を持ち出し、彼女の家に向かいます 。

彼は説得しようとしますが、誰も聞いてはくれません 。

ついには彼は説得されて、彼女への恐怖が生まれてしまいます 。

家族を始め、大勢で家に松明を投げ入れ、彼女ごと焼き付くす裁断でした 。

そこへ運悪く、姉姫が帰還してしまいます。

彼の直属の上官が慌てて止めに入ります。

『ここは魔女の館です、団長様! 』

姉姫は言いました。

『どういうことだ?! ここは私の家だぞ!? 』

彼の直属の上官は信じられないという顔をします。

『魔女の一族なのですか!? ここにいる娘は魔女ですぞ!? 』

姉姫は言いました。

『おまえのいう娘は私の妹だ! 何をしている! 火を消せ! 』

周りは恐怖に怯えています。

彼が経緯を話しますが、途中で彼の家族が口をだし、娘との発端を知ってしまいます。

更に運悪く、慌てて出てきた妹姫。

『これはどういうことですか? 貴方は私に嘘をお付きになられたのですか?』

哀しみに暮れる妹姫。

『貴女は魔女だから……、一緒にはなれない』

その一言で彼に何が合ったか悟ってしまいます。

そのとき、町人が言いました。

『血だけは残していけ』

その言葉に姉姫は怒り、男物の服を脱ぎ捨ていつもの服になりました。

『残念だ。今まで守ってきた者たちからこのような仕打ちを受けるなんてね』

冷徹に笑う姉姫。

妹姫は、はっとしました。

『お姉様! もう! もういいのです……』

そして、町人たちに向き直り言いました。

『立ち去りなさい、ここは貴方たちのような者が立ち寄っていい場所ではありません』

一瞬で静まり返ります。

『お姉様は一瞬で貴方たちを殺せますよ?早くお行きなさい! 』

術にでもかかったかのように町人たちが散り散りに去っていきます。

残った彼にも言いました。

『忘れてください、もう二度と来られませんよう……』

彼もそのまま立ち去りました。


その後も戦は続きました。

しかし、勝利していたのは姉姫がいたがため。

姉姫は二度と人間を助けることはありませんでした。

敗戦が続きました。

甚大な被害がでました。

姉姫の加護がどれ程であったかを実感せずにはいられませんでした。

姫神を知っている者たちは絶望しました。

もう、加護は何もえられないのだと……。


何度目かの戦が終わったある日。

妹姫は目を見張りました。

『……来ないようにといったはずです』

そう、またあのときのように重症を負った彼が彼女の前に現れたのです。

『私の血を所望ですか? 残念ながら、効果は一度きりです』

彼は笑うだけ。

『一度目は愛する方にのみ癒しの効果があり、二度目は……猛毒です』

妹姫はわかっていました。

彼を忘れられるはずがありません。

ゆっくりと彼が口を開き、言いました。

『姫、血をください』

ただ一言だけ……。

『死ぬと分かっていうのですか!? 』

彼はただ微笑んでいました。

妹姫は諦め決意し、彼に血を与えます。

『最後に貴女に会いたかった。最悪な形だけれども、せめてもの……』

そして、事切れました。

妹姫は彼を抱き、静かになき続けました。

泣き止む頃には、彼は消えていました。

彼女の手には花の種が一粒。

『……本当に最悪です。私に殺されることで全て赦されるなんて思わないで……』

妹姫はその種を庭に植えました。

ずっと、外に出ることもなく育て続けました。


姫はもう恋をしないのでしょうか……。

それとも、今でも幸せを追い求めているのでしょうか……。

裏切られても信じる、その気持ちだけは変わらないことでしょう。



ー終ー

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過去短編集 姫宮未調 @idumi34

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