そして歌があふれる

月島

第1話 猫になりたい

 世間は連休中。空は快晴。そんな昼下がりの河原沿いの道を、花音は自転車で走っている。

 お腹空いたなぁ…と時々ふと思い出す。

 そして考えないように…と頭から追い出す。

 自転車で爆走するから、汗ばんでいる。上着なんて着ていない。Tシャツ一枚。下はナチュナルにダメージなジーンズ、そして履き古したオールスターの黒のスニーカー。最近かかとのあたりに違和感を感じるけど、気のせい気のせい。

 今日は朝9時から1つ目のお弁当屋さんのバイト。13時に終わるはずが、忙しくて上がれなかった。

 いつもだったら残り物分けて貰えるけど、今日は店長もそんな暇なさそうで、花音も時間が無くって直ぐ店を出たのでお昼を食べそびれたのだ。14:30から映画館で2つ目のバイト。

 きっとポップコーンの匂いで目眩がするだろうな…

 カーブをスピードに乗って曲がって行くと、坂の下の草むらに人がうずくまっていてギョッとした。

 …あ。違う。うずくまって無い。

 制服姿の男の子。高校生かな?彼の手元に、二匹の仔猫がいた。棒きれを猫じゃらしみたいに使って遊んでいる。黒猫とキャラコ。可愛い…と思ったのは、猫に対してか、その男の子に対してか…

 坂を上りながら彼らを見下ろした。可愛い…もう一度思った。

 短髪をツンツンに立たせていて、細い、顔から頭までのラインが凄く綺麗。制服のブレザーを右肩にかけ、白いシャツが眩しい。絶対にモテるでしょ、君。そんな子が、人目のないところで子猫と戯れている。

 こんなレアな場面に出くわしたらもう、猫になりたい…としか思わないでしょ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る