白夜(3)
太鼓の
「監督、どうしますか? このシフトじゃ同じ展開になるかと」
「悪くはなかったんだけどな。チャレンジした発想も」
ただ、今選んだ戦法がこの対戦カードではフィットしなかったということ。
名古屋はここで
が。
ファウルを取られた。
倒された選手に怪我はなかったが、
「……直接狙える距離ですね」
真賀田コーチの不安を強化するように宮瀬コーチは、
「名古屋の7番はフリーキックの名手ですよ」
俺もデータで知っていた。積極的に得点に
押せ押せムードの現状での追加点は立ち直るのに相当時間が掛かる。また、そういう時は意外なほど入りやすいのだ。
早くもターニングポイント。
宮瀬コーチは祈りを込め、真賀田コーチは行く末をじっと見定めていた。かくいう俺は何がベストで、どうすれば名古屋と渡り合えるのか思案する。
後手後手に回ってしまったことに、心苦しさがあった。ずっと穴はないかと探ってはいたが、名古屋はよく統制の取れたチームだし、クレバーな選手が多かった。今にして思えば、リーグ前半でどうして勝てたか不思議なほどである。
と、思っていると、名古屋ファンが歓喜を爆発させる。無情にもキーパー皐月の手は届かず、ゴールネットを揺らされた。
嫌な展開だが、決して最悪ではない。
まだゲーム序盤だ。
真賀田コーチが「水分補給を!」と声をかける。それぞれは近いボトルを取りに行ったが、心美がベンチに駆け寄ってきた。
「監督、私……もう。……迷惑かけちゃうから」
心美は俯いて、歯噛みしていた。
「変わりたいのか?」
正直言って心美に抜けられるのは手痛い。だが彼女のメンタルを思えば、使い続けるのは酷かもしれない。後悔や自責の尺度は人それぞれだ。彼女が本当にもうやれないのなら、次節に向けてケアする方向性にすべきだろう。
「私……わからない。どうすれば正解なのかわからない。だから……」
「先に一つ確認させてくれ。まだ戦えるのか、戦いたくないのか、どっちなんだ?」
「……たい」
心美がどちらを宣言したのかは聞き取れなかった。しかし、目に涙を浮かせて、けれども力強い眼差しで俺を見つめる様子から、戦意はまだあるのだと察した。
「君はトップ下に入れ」
心美はまぶたを叩いた。
「でも……」
「トライアンドエラーでいいじゃないか。わからないなら探し続ければいい。最初から結果なんてわからない。それがサッカーだろ?」
すると心美は深く頷き見せた。
俺は、真穂と環をDMFにまで下げるよう指示。4-3-1-2のスリーボランチを新たに選択。由佳を真ん中で、左右に真穂と環である。俺自身、これが正解なのかはわからない。ただ、高い位置でキープ力のある心美が散らしてくれれば、突破力のある真穂と環が前を向いてプレーできる。
ポジションに戻ろうとする心美を呼び止め、俺は拳を差し出した。
「心美の力が必要だ。勝利に手を、いや、足を貸してくれ」
「私なんかでいいの?」
「何言ってんだよ。君はSSSレアくらい価値ある選手だ」
「いくら課金してくれる?」
「腹一杯食わせてやるよ」
「約束だからね」
拳を突き返し、心美は微笑を残してコートに戻った。
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