487.8km
朝倉あき
第1話 初めての手紙
家族を京都に残し東京へ出稼ぎに来て、突然のリストラで仕事をなくし離婚。就職先が見つからず、家賃も払えずアパートを追い出され、ホームレスになって4年目の冬、その日は雪が降った。
ドーム状の屋根が特徴的は駅舎の前で男が地べたに座っている。
身なりから誰も近づこうとない。しかし、一人の老人がその男の前においてある椅子に座る。老人は500円をポケットから取り出すと男に渡した。
男は「ありがとうございます」といって老人の靴を磨き始めた。
今日は結構な儲けになったな。そんなことを考えながら道具を抱えて帰路を歩く、
男はあるアパートの前で立ち止まった。追い出されたアパートで、今の生活が始まった場所でもある。思い出すのは最悪な思い出ばかり、足し去ろうとしたとき声をかけられた。振り向いたら知った顔だった「大家さん」喉にへばりついた唾のせいで思った以上に声が出なかった。
「よかった。どうしようか困っていたのよ。ちょっと待ってて」大家さんはそういうと自室に入り、そして戻ってきた。「これあなた宛てに来ていた手紙」渡された封筒の差出人を見ると娘からだった。大家さんを見ると「あなたが住んでいた部屋のドアにはりつけてあったのよ」
見るのが怖い。父親として何もしてやれなかった恨まれることしか思い当たらない。「ありがとうございます」お礼を言いながら封筒を無造作にポケットに突っ込んだ。大家さんは何か言いたげだったが何も言わず男を見送った。
男は段ボールでできた家で横になりながら、封筒を見て思い耽っていた。
思えば結婚した当時は毎日、笑顔が絶えなかった。娘が生まれたときはともに涙を流し喜んだ。そうあのころは、お互い素直になれた。いつの間にか父親とかが役職みたいになってきて、娘の誕生日や結婚記念日が特別に思えなくなって仕事みたいになっていった。
いつしか君とはケンカばかりしていた。だから僕は逃げ出すように東京へ出稼ぎにでた。娘を残し、その娘からの手紙。
封を切り中の手紙を取り出す、目を通す。
...
...
...
内容に混乱した。
「お母さんが病気で倒れて、三条の救命救急センターに運ばれました。」
手紙の下の方はインクが滲んで読み取れなかった。
娘がどのような表情でこの手紙を書いたかが脳裏に浮かんだ。
残っている小銭をかき集め、段ボールから頭を勢いよく突き出し、
ボコッ 突然の蹴りに倒れると周りには高学生達が立っていた。
その先は記憶にない。気が付いたら段ボールに埋もれていた。
顔が痛い。腹も痛い。
そのあと、あたりを探したけど小銭は残っていなかった。
娘の手紙は破られて捨てられていた。手元に残っていたのは切れ端だけだった。
歩いていた。
ただ歩いた。重い体をひきずり、歩いていた。
頼れる人はいない。金もない。
今の自分には進むしかない。歩いて。
頭から離れない君の笑顔、娘の涙をかみしめて歩いていく、487.8km...
487.8km 朝倉あき @asakura369
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