鉄砲隊の衝撃

 翌日、ジェノバの正規兵100と冒険者義勇兵150が編成される。あたしたちのパーティは義勇兵の前衛に配置された。というか、20人ほどの小隊を任されている。目的地は南の砦との中間地点にある間道を先に進んだ古い砦。盗賊団はそこを根城にしているという。

 小高い丘の上に築かれた砦は、以前の街道を扼していたそうだ。けども上り下りが多い短距離よりも平坦な回り道の方が商人たちに受け入れられた結果、この砦は放棄された。

 そして、食い詰めた傭兵などが集まり盗賊団ができてしまったという、ある意味ありふれた話だった。

 ジェノバ大公の軍は数こそ多くはないが、装備は充実しており、腕利きの冒険者をスカウトすることも多いため精強である。

 ただし、冒険者というのは一般の軍のような集団行動ができない。そういった訓練を受けていないという報が正しい。よって、少数精鋭で遊撃隊として動くことが多いのだ。

 それとは別に俸給をもって雇われた軍は別に存在しており、彼らが軍勢としての中核を担う。ただし、大規模ゆえに動きが鈍く、準備に時間がかかる。

 今回のような交易に即座に悪影響が出る場合は、即応性の高い冒険者を集めて部隊としてぶつけることも多いらしい。

「……というわけだ」

 ジェド様の説明が終わった。ちなみに今は平原のど真ん中で陣を張っている。周囲には見張りが立ち、奇襲を許さない警戒態勢だ。よって、安心して駄弁ることができている。

「うん、なんかわかったようなわからないような」

「いい、シェラは自分の仕事をしてくれたら、な」

「もちろんさ! 任せとくれ」

 そこにアルフが口をはさんでくる。

「あー、それって聞きようによっては、シェラに高度な思考を要求しないと言ってるようにも聞こえるが」

「……そうは言っていないぞ? 適材適所だと言いたいんだ」

「であれば、策略や政治的な思考にシェラの適所はないってことですな?」

「シェラにはシェラのいいところがある。そこを生かしているゆえに私はとても助かっているのだ」

「にゃはは、てれるね。そんな褒めないでおくれよ」

 意図的にボケた回答を返してみた。満面の笑みと共にだ。すると、ジェド様はうつむきなにかを必死にこらえている。アルフの奴は必死に笑いをこらえてやがる。ので、ちょいとわき腹をつついてみた。

「ぶばっ! 何をしやがる!?」

 噴き出したつばが思い切り周囲に飛び散りレザが直撃を受けていた。哀れ。

「すまん、シェラ、悪ふざけが過ぎるぞ!」

「ふん、隙を見せるほうが悪いのさ!」

 そうしてあたしは自分に割り振られているテントに入る。見張りの時間まではもう少しあるからそれまで少しでも休んでおこうと思った。

 ほどなくしてあたしの意識は闇に落ちてゆく。ジェド様とアルフが何かを話していたようだが、あたしには難しい話は分かんないし、気にしないことにした。


「空恐ろしい。私の隙を突いてわき腹をつつくとか……あれがダガーだったら私は討たれていましたな」

「油断か?」

「滅相もない。一瞬にして隠形で気配を断ち切り、私の感覚の隙間を縫ってつんっと。完全に不意打ちであのような無様を晒す羽目に」

「シェラの才は?」

「ありゃ天性の暗殺者ですな。東方の伝説にあるというニンジャにもなれるんじゃないですかね?」

「大層な拾い物だったようだ」

「側近としてお傍に置くに足る者です」

「ああ、決して離しはしない」

「それはあれですか? 惚れましたか?」

「……そういう意味ではないし、彼女も迷惑だろうよ」

「まあ、臣下として置くのがよいでしょうね」


 その晩は奇襲などはなかった。というか、斥候らしき兵は周囲をうろついていた。2~3人を弓で仕留めたが、それ以降は弓の射程内には近寄ってこなかった。

 普通に考えれば警戒が厳しく奇襲は無理であると考えたのだろう。とりあえず交代の時間にジェド様に敵の斥候をしとめたと伝えてあたしは朝までの眠りについた。


 翌朝。砦に向かう感動の入り口が柵を巡らせて封鎖されている。そしてその後ろには弓を構えた兵が配置されていた。

 そしてあたしは衝撃的な光景を目にする。鉄の筒を構えた兵が現れ横陣を敷いた。指揮官らしき公国騎士が手を振り上げ、振り下ろすと轟音が周囲に響き渡る。それはあたしが大公国が誇る鉄砲隊の威力を目の当たりにした最初の日となったのだ。

 弓の射程の外側から一方的に敵が討たれてゆく。敵兵の状態からして、礫を高速で飛ばす武器なのだろう。あまりに高速で飛来するため、避けることも防ぐことも難しい。皮鎧程度では防げず、チェーンメイルでも衝撃を跳ね返せず、死にはしないが重傷を負っている。

 弓の攻撃をかいくぐって柵を引きずり倒さんと考えていたあたしたちにとって、いい方面での予測が外れたことになる。

 敵は算を乱して、死んだ仲間を置き去りにして逃げ出す。明け方に始まった進撃は、敵の遅延防衛戦を圧倒的な火力で打ち砕き、昼過ぎには砦に迫っていたのだった。

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