速攻

 空くんが降りるより少し遅く、敵の一人もフィールドに降りてくる。降りてきたのは緑のローブを着たエンダーだ。 


 緑エンダーは、バサッとローブを脱ぎさる。 

 現れたのは、空くんの二倍の身長はある、大柄な男だった。緑の特攻服を身に纏い、髪はまっすぐ前方に伸ばしたリーゼント。


「へ、なんだァ? 俺の相手はガキかよ」

「……」


 ここからでは二人の会話はよく聞こえないが、多分敵が空くんを挑発しているんだと思う。


「そうそう、俺ってさァ、耳良いから聞こえてたぜェ? お前らの会話ァ。俺達が対策しているとかどうとかァ」

「……」 


 きっと空くんのことだ。相手が何と言おうと、無言を貫いているだろう。


「他の奴は知らねェけどさァ、俺はそんな小細工しねェよォ? なんたって俺の能力はァ……」 


 何を思ったのかは知らないが、リーゼントエンダーが突然反復横飛びをし始めた。体力測定なんかで行われる、あの反復横飛びだ。 


 私は驚いた。 

 速い。敵の動きがとても速い。残像でリーゼントが三人に見えるくらいに速い。


「このとおりィ、スピードだからよォ。お前がどんな能力だろうと速攻で決めてやるよォ」 


 そうか、あのエンダーの能力は高速移動なんだ。


「あのエンダー、勝負が始まる前に自分の能力を明かしたぞ!」

「それだけ自分の能力に自信がおありなのでしょう」 


 車田くんと氷華ちゃん。もっと空くんの心配をしてあげたらどうだろ。相手の能力はスピードなんだよスピード。 

 速く動けることは、人間社会においても野生動物界においても、とても有利なことだ。 

 仕事が速い人は出世も早い。早く動ける動物は、狩りも上手い。 

 それは能力バトルにも言える敵の攻撃も簡単に避けられるだろうし、スピードで翻弄もできる。 


 空くんの能力が、そのスピード相手にどう対処するのか。


「それでは……勝負、始め!!」 


 残った四人のエンダーの内、一人がバトル開始宣言をする。


「へへェ! ガキィ、一瞬で決めて――」 


 消えた。 


 空くんに向かって突進しようとした、リーゼントエンダーが消えた。 


 その場にいた全員、空くん以外が「え?」というような顔をしている。


「ど、どういうことだァ……!?」 


 何か声が聞こえた。声をする方を見ると、消えたエンダーがいた。 

 しかもいた場所は、消えた地点から二十五メートル以上離れた地点、枯れた湖の外だ。 


 ……あれ、湖の外ってことは。


「……場外、僕の勝ち」 


 小さな声で空くんが価値を宣言した。 


 場外負け。なんという呆気ない終わり方だろう。スピード自慢は負けるのも早かったというか。 

 いや、勝ったのは嬉しいよ。嬉しいけど。私の心は嬉しさよりも、疑問が掌握していた。


「え、え、今一体何が起こったの? なんで敵が場外になっているの?」

「もしや」 


 そう呟くユウ。 


 その時だった。


「ふざけんじゃねェ!!!」 


 リーゼントが叫んだ。そして素早い動きで、湖の外から空くんのもとへを移動する。 

 そして空くんの小さな胸倉を掴み、持ち上げた。 


「おい! 勝負は空の勝ちだぞ!」

「うるせえェ!! ……速攻で決めるのはやめだァ。ジワジワとなぶり殺してやるよガキィ!」 


 車田くんの反論をよそに、エンダーは空くんを攻撃しようとする。 


 まずい、助けないと! 


 そう思った瞬間だった。


「……後ろ」

「あァ?」 


 エンダーの背後から、赤い何が現れ、エンダーを襲った。

 それは、溶岩だった。この島に来る途中で、私達の船を襲ったあの溶岩。空くんが消してしまった。あの溶岩だ。


「がはっ!」 


 致死量のダメージを喰らったらしい。スピードエンダーは黒い灰になって消えた。 


「……敵消滅、僕の勝ち」

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