第6章 失われた記憶

人生一度でいいから高級車に乗ってみたいよね

 NEX開催の次の日。 


 私はユウの住む公園に来ていた。


「大会、終わっちゃったね」 


 私とユウはベンチに座る。


「流石のDCも、あの状況で大会を続けるとは言えないからな」 


 当然だ。いくらアビリティリングの流通でDCが世界経済を支配したと言っても、殺人が起こった大会を続行することなどできない。そんなことをしたら、全世界中の人から批判を浴びてしまう。


「……あの風使い、何だったのかな?」 


 私は、あの殺人鬼、ユウが倒した謎の人物を思い出す。


「少なくともただの人間ではないことは確かだな」

「アビリティリング無しで能力を使っていたもんね」 


 私も現実化した能力者だけど、それはアビリティリングあってこそだ。 

 でも乱入者は、リングを身に着けていなかった。


「いや、それだけじゃない」 


 ユウが意味深な顔をする。


「能力を使ってたことも勿論だが、俺が奴を倒した後、死体は残らず、黒い灰となって消えた。刀爆に一撃で死体を灰に変えるほどの火力は無い。つまり、灰になったのは奴の性質と考えていいだろう。その点から見ても、あいつが普通の人間ではないことは明白だ」

「じゃあ、あれは一体……」

「さあな。まだ人間が認知していない、全く新しい生物なのか。もしくはやつでの『妄想創造』のような能力によって作られた存在か。いずれにしても、俺達がいくら考えたところで埒が明かない」 


 確かにそうだ。


「……だが、知っていそうなやつの手下が来たぞ」 


 ユウは前方を指し示す。 


 その方向には黒服の男がいた。こちらに近づいてくる。


「凩やつで様と、不動ユウ様ですね?」 


 男の人が丁寧な口調で私達に話しかける。今から私はこの人を黒服さんと呼ぶことにした。


「私はディノコーポレーションの者です。社長があなた達にお話があると仰っています。ご同行を」 


 DCの社長が、私達一般人に話? 

 怪しいとは思った。でも同時に真実が知りたいとも思った。DCなら、あの乱入者のことも知っているかもしれない。 


 だから私達はDCに赴くことにした。 


 私とユウは高級そうな外車に乗せられる。ロールスロイスなんて初めて乗った。シートがとてもフカフカでびっくりする。

 黒い車の車内には先客がいた。


「あら、あなた方は……」


 私はその先客を知っていた。

 吹雪氷華さんだ。NEX第一回戦第一試合で、炎の車田烈くんと戦った、水使いの少女。

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