もし能力者になったら、皆必ずマンガキャラの技を真似るよね
そういうと車田くんは後ろに跳んで、ユウとの距離を取る。そして彼は両手を天に掲げた。
「なんだそれは。降参のポーズか?」
「ちげーよ! これはあれだよ! ドラゴンボールの孫悟空の元気玉のポーズ!!」
あー。確かに言われてみるとそう見える。
ドラゴンボールは今でも根強い人気だ。その影響か、ビームを出す類のアビリティリングで、かめはめ波を再現したりしている人も多い。ドラゴンボールはそれほど人気の漫画だ。
「分からん」
だけど、ユウはドラゴンボールを知らなかったようだ。
「え!? お前ドラゴンボール知らねーの!? それでも日本人……いや、地球人かよ!!」
「大きなお世話だ」
「よし、今度貸してやるよ! とにかく、その元気玉ってのが世界中の生物から少しずつ元気を貰って、それをエネルギーとして放つ技なんだ! まあ、俺のこの技は炎を溜めるんだけどな!」
車田くんの手を見ていると、炎の球体が発生していた。
その球体はどんどん大きくなり、やがて直径十メートルくらいにまで肥大した。
「よし、チャージ完了!! あとは投げるだけ――」
「三分」
車田くんが言い終わる前に、ユウがそう言った。
「三分って何のことだ!?」
「お前がその技を完成させるまでにかかった時間だ。これは訓練だから俺は待ってやったが、敵は待ってくれないぞ」
そういえば、本家の元気玉もエネルギーを溜めるのに時間がかかる技だったな。
「確かにこの技の欠点はチャージに時間がかかることだ!! だが、威力は保障するぜ!!」
「ならば来い」
「うぉおおおおお! 喰らえ、火炎砲!!」
車田くんは巨大な火の玉をユウに向かって投げつけた。
ユウは刀爆を構える。どうやら受け止める気のようだ。
刀爆の刃と火の玉が衝突する。
「くっ……」
火炎砲の威力が凄まじいのか、ユウは少しずつ後退している。
「どうだユウ! オレの火炎砲の威力は!!」
「確かに、なかなか強力だ。……俺も少し、本気を出そう」
ユウが刀爆を振るう。まるで野球選手のバッティングのように、炎を打ち返した。
打ち返された、球は……。
「きゃああっ!!」
私の足元の床に衝突し、爆発した。
「え!?」
「! やつで!!」
私は炎に囲まれてしまった。
「た、助けて!!」
私はユウに助けを求める。
「車田! 早く火を消せ!!」
「む、無理だ! オレは炎を発生させられるけど、消すのはできないんだ!」
「くっ、やつで!!」
ユウが炎の中に飛び込んで来る。炎を掻い潜り、ユウは炎の中央……私がいる所にたどり着いた。
「やつで!」
ユウが炎から私を守るように抱きしめる。
「待っていろ、すぐに炎を消す」
そう言うとユウは、ホルダーから一枚のカードを取り出した。
「来い、吸収か――」
ユウが新たな武器を呼び出そうとした、その時だった。
私達の後ろから水が流れ込んできた。
その水はまるで蛇のようにうねうねと動き、炎に覆いかぶさる。
水を浴びた炎は、鎮火した。
「これは……」
「全く、あなた方は何をなさっているのですか?」
私は声のする方を振り向く。
同い年くらいの少女一人と、一人の小さな少年がこちらに向かって歩いてきた。
「氷華ちゃん! それに空くんも!!」
私は彼らの名前を叫んだ。水を操る吹雪氷華ちゃんと、常盤空くん。きっと今の水は氷華ちゃんが発生させた物なのだろう。ということは、彼女も実体化した能力者?
……あれ、どうして私は、この少年の名前を知っているのだろう。氷華ちゃんは試合を見ていたから知っているけど、この子とは初対面のはず。
それにどうして私は、彼女のことを『氷華ちゃん』と呼んでいるのだろう。彼女と面と向かって話すのは、初めてのはず。
何かがおかしい。
そう思った、その時だった。
「あ、頭が……!」
また頭痛が起こった。
しかも今回のは一段と強烈な頭痛だ。
ダメだ、意識が――。
「やつで!」
途切れゆく意識の中で、ユウの私を呼ぶ声が聞こえた。
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