五大巫女

長島東子田川

第1話

「お嬢様、一本手合わせを!」


「え?やだ」


小さな島にある大きな屋敷。火ノ宮家。武術に秀でたその家には武道を極めんとする者が多かった。


そしてその一人娘。火ノ宮家の長女、茜。14歳。


「おはよう、おかあさん!朝ごはん何ー?」


「茜、おはよう。今日は塩焼きとお新香、豆腐とワカメの味噌汁よ。あ、真奈美さん、これもお願いしていい?」


「はい、奥様」


「茜は学校の準備しなさいね。ほら行った行った」


茜は大広間へと向かった。武術の練習が無いものが交代でテーブルを出す。門下生、警備、お手伝いさん。みんなでご飯を食べるためだ。


「お嬢様、おはようございます」


「おはよう、火苗。あ、布巾足りるかな?」


「大丈夫ですよ。こちらにまだありますので」


テーブルを拭いていたワイシャツ姿の青年は淡々と作業をしている。門下生達も作業してるのを見て茜は口を尖らせた。


「もーあたし朝やることないじゃん」


「手合わせはなさらないのですか?」


「汗かくじゃん。あいつらあたしに容赦ないからさー。兄貴達もあたしを女だと思ってないよね」


「女扱いされたいのですか?」


「それはキモいからいいです。あ、あたし庭に行ってくるね。すぐ戻るから」


いつものように庭にいる鯉に餌をやりにいく。残った仕事はそれしかない。火ノ宮家の日常。広い屋敷で武術に励み警備やお手伝いさんも仲よく過ごしていた。


「あれ?キツネ………?」


庭の隅、植え込みの中からじっと茜を見つめる一匹のキツネ。勾玉のようなものが額に埋め込まれていた。


「あれ?茜?なにしてんだ?」


「あ!?」


キツネはすぐさま姿を消した。


「兄貴のせいで逃げちゃったじゃん!」


「なにがだよ?」


茜は何故かそのキツネが気になって仕方なかった。

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