困惑のツレション

芹沢 右近

第1話

「困惑のツレション」


私は大学時代4年間ずっと大学の寮で暮らしていた。住んでいた寮は、仲良く並ぶように男子寮と女子寮の棟が建っていた。


男子寮と女子寮は建物の物理的には繋がってはいたが、もちろん堅い施錠された扉で仕切られており、自由に行き来はできなかった。


だが、そこは二十歳前後の男子と女子、男子女子交流という名目で、運動会や演劇大会や飲み会やなんやらで男子寮の集会所や食堂に女子を招き入れて交流会を度々行なっていた。


そんな中、私が3回生の頃、男子寮女子寮の交流飲み会があった。そこで知り合った女子寮の後輩と意気投合し、隣同士でビールを注ぎ注がれつ門限23時ギリギリまで語り合ったことがあった。


当時年齢にして、私は21才、彼女は20才だったと思う。


私のとなりにくっつくようにして飲んでいた彼女はちょっと酔ってきたようだった。


突然「ワタシ、トイレ行く!」と言い出した。


男子寮の構造上、男子トイレが各階に1つしかない。それも小便器以外の個室は3つだけ。

もちろん、女子トイレはない。


よって、男子寮にやってきた女子は必然的に男子トイレの個室で用を足さないとならない。


「トイレすぐそこだから、行って来いよ。」私は彼女にトイレの場所を指し示した。


しかし、彼女は私の横腹のシャツを引っ張りながら、「一緒に行こうよ〜」と懇願してくる。


「めんどくさいなー、じゃあトイレの前まで連れてくわ。」と彼女を連れ立って男子トイレへ。


トイレに入った彼女は扉から顔を出し、私に手招きする。


「なに?」正直めんどくさくなってきた。


「私が用を足してる間、他の人が来ないように見張っといてよ〜。せんぱーい」と依頼してくる。


「まあ、いいけど、じゃあトイレの扉の外で待っとくわ。」


「ダメ!中まで入って個室の戸の前でちゃんと見張っといて!誰か来たらヤダから!」


まじか〜、そんな個室の真ん前で立たされたら、お前の放尿の音が丸聞こえじゃん。おまけにウチのトイレは全部和式だし、盛大な跳ね返りサウンドが鳴り響くぞ!


と思って止めようとしたが、彼女は既に個室に入り、中から鍵を閉め、用を足す準備を始めてしまった。


「ねぇー?ちゃんと居るぅー?」個室の中から質問が飛ぶ。


「居るよ!ちゃんと個室の前に居るって!」

そう私が言うと、安心したのか、やがて放尿サウンドが鳴り響く。言わんこっちゃない...


おい!カムフラージュにやってるときに水ぐらい流せよ!丸聞こえじゃん!


その間も「ねーねー、先輩ちゃんとそこに居るぅー?」と聞いてくる。


「居るって!逃げないから落ち着いてちゃんとしろよ!」


おっさんになった今、当時と同じ状況で、若い女子の放尿音を聞いたら少しは変な気持ちになるかもしれないが、当時21才の私は、これで性的興奮を覚えることはなかった。当時は聞いてはイケナイものを聞いてしまったなんかわからん罪悪感でただ慌てていた。


「あースッキリしたー」彼女は我関せず顔で個室から出てきた。私の葛藤も知らずに、この小娘は...


いったいこの娘はなんなんだ?男子に放尿音を聞かれてなんにも感じないのか?酔ってるから頭の回路が麻痺しているのか?それとも私を男として認識していないのか?もしくは、逆に信頼しているからこそ、そういう音を聞かせてもいいと思っているのか!!?

未曾有の経験をした私は解を求められず、悩むばかりであった。


その後も、彼女は私の隣にピタリとくっついて一緒に飲んで笑って、そして時折私を伴ったツレションを数回繰り返し、その都度私に放尿音を聞かせ、そして最後に門限時間に笑顔で手を振って帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

困惑のツレション 芹沢 右近 @putinpuddings

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る