残響

私達の躯に音はよく響く。創り手の語りかける声も、緻密な旋律を奏でる器楽も、等しく身の内の洞で跳ね返って漠然とした「音」と知る。ある程度、或いは必要以上の語彙が私達には初めから与えられていた。美しいことば、呪いのことば、どちらをも孕むことば。また同じように、概ね正しいと規定されるインターバルを把握していた。しかしそれら総ては私達にとっては知識でしかないのであって、また機械に過ぎた娯楽は必要ないように思われたから、いくら知ってもやはり均しく、躯の内側で霧散した。知識は、空きっぱなしの躯を満たしはしない。創り手は飽かず懲りず、人間が楽しむための音を流し、そのひとつひとつを笑顔で語ったが、私の中にはイチとゼロのメモリーが無限に蓄積されていった。

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