第10話 電気

第10話 電気



「アラン!ちょっと聞きたいことがあるんだ。」


 朝食を食べているアランに話しかける。


「おう!なんでも聞け。ってひでぇ顔だな。」


 僕の顔はボコボコになっていた。


「そうだよアラン、君の妹が…」


 と、妹の所業をその兄貴に伝えようと思ったが、そこでツンツンと背中に丸っこい木の棒の感触がした。

 さっきそれで殴られたから感触はしっかりと覚えている。


 後ろに、妹がいる。


「あ、そう!エオと修行だよ。運動不足じゃこの世界、生きていけないだろ?」

「それにしてもやりすぎじゃないか?」


 僕は痛む顔にムチを打って、笑顔を作る。

 笑うと痛んだなこれが。


「いやいや、僕の方からエオウィンに頼んだんだ。」

「もうそこまで仲良くなったのか。二人のことは心配だったから、嬉しいよ。」


 妹が口を開く。ニコニコしている。


「そうよ。真剣に頑張ってるの見て見直しちゃった。これからも時々稽古をつけてあげる。」


 これからも!?


 あれは断じて修行ではなく、控えめに言ってリンチだった。

 僕がチトセを部屋に連れ込んだと勘違いしたエオウィンが、周りのものを手当たり次第に僕に投げつけてきたのだ。

 不思議なのが、顔中に腫れができても、チトセが全く動かなかったことだ。


「やめろって!誤解だ!」


 訴えてもエオウィンは攻撃をやめなかったし、チトセの方も、


「チトセ!やめさせてくれ!死んじゃう!」

「大丈夫。エオはアキヒロを殺さないって言ってたから。」


 それって半身不随はセーフってこと?


 女子たちの間では、僕の扱いについて、悲しい方向に話がついているようだった。


 そこでアランが話を戻した。


「で、聞きたいことがあるって?」

「そう!電気。電気だ。コンセント、どこかにある?」

「『電気を恒常的に出せるもの』ねぇ。そんなものは聞いたことがないな。」

「え?何て?」

「『電気を恒常的に出せるもの』、だろ?」

「まぁ確かにそうだけど、コンセントだ。」

「ああ!わかった。君は僕たちの知らない言葉を使っているんだね。」

「え?どうゆうこと?」

「君と俺たちにはエオの『翻訳魔法』がかかっているんだ。」

「翻訳魔法?」

「最初、俺たちの言葉がわからなかっただろう?」

「ああ…ああ!日本語、喋れるんじゃないのか!」

「そうだ。エオの翻訳魔法のおかげで、こうして喋れるというわけさ。そして意味の通じない言葉は、一番近い言葉で翻訳される。」

「なるほど、すごいな。」

「ああ、これだけ繊細な魔法を使えるのは才能ある熟練の魔法使いだけだ。」


 金髪の天使は嬉しそうだ。

 そうやっていれば、可愛いのに…。


 しかし便利なものがあるもんだ。


「また話を戻すが、『電気を恒常的に出せるもの』だな。」

「そう。それがあれば、こいつに電気を溜め込んで、あっちの世界に帰ることができる。」


 僕は手の上のアイボーをアランに見せる。


「日本…か。」

「そう。でも知らないんだよね?この世界には電気がないんだね…」


 アランは少し考えてから、こう話した。


「…確かにこの世界にはみんなが使えるような電気はない。でも、『モノ』ではないが…ほんの少しだけ心当たりがある。だけどちょっと確信が持てないから、もっと詳しい人に会いに行こう。」

「誰?ここから近いの?」

「ああ、街の外れの外れの森の奥に住む老婆。この辺りでも一番の物知りだ。」

「是非会わせてくれ。」

「わかった。案内しよう。…あ!」

「ん?どうしたの?」

「ついでに、魔物との戦い方をアキに教えよう。」

「え?」


「モンスター討伐の、入門編だ。」


 おや?これから何か始まるようだぞ。

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