3-8 夕食での風景
しばらくして、テトから連絡があった。今回は試作ということで、テトの仲間内でオリジナルの本を作ってみたらしい。印刷においては、まだまだ試作と時間が必要ということだ。たしかに印刷をするにあたって準備にも時間がかかりそうだ。下書きを書いて、そしてインクを乗せてとなると数年単位で時間がかかる恐れがある。そういう意味で、今回は10冊の本が作られた。
季節も変わっていき、アリーシアも大きくなった。
アポロも今や幼児らしさのプクプクした面影もなく、子どもらしく庭を走り回っている。親戚回りはまだひどく憂鬱そうだが、慣れというものがある。外ではとても良い子にしているらしく、お父様はアポロも成長したのかと笑っていた。
最近、アポロは剣の練習を熱心にしている。体がなまってしまうのは気持ちが悪いらしく、父に城兵の訓練においての基礎練習も教えてもらい、日々こなしているらしい。アリーシアには相変わらずなついているし、かわいらしい弟なのだが、訓練中は話しかけられない雰囲気だ。アリーシアが立ち入ることができない様子がある。アポロの打ち合いにあくまで剣を受ける側としてはアリーシアも剣を持つが、たまにアポロの殺気が怖いときがある。剣をもつ人の風格なのだろうか。まだアリーシアよりはアポロの背が小さいが、追いつかれるのもそこまで遠い話ではないだろう。
「え、姉さま今日も孤児院へ行くの?」
「そうよ。今日は絵本を渡しに行く日なの。」
「絵本…………、僕が読んでいる本みたいなもの?」
「そう、アポロにあげた本に近いものよ。絵が描いてあるだけではなく、文章がついている本もあるでしょう?それを孤児院へ贈り物として渡すのよ。」
「そうなんだ。僕も行きたい!」
「ええ!?それは急には難しいと思うわ。お母様に聞いてみないと。それに相手の方に、急に行っても迷惑になってしまうでしょう?」
「えー。」
「面倒だけれど、貴族の子どもが外に出るのにはそれなりの準備が必要ということだわ。特に城下街にでるのには、警備のこともあるのだから。」
「僕は自分のことは自分で守れるもん。」
「アポロはまだ外で戦ったことがないでしょう?駄目よ、自分の能力を過信してしまったら。アラン兄様に頂いた本にも書いてあったでしょう?自分の能力を過信するのは、時には命取りになるということが。」
「そうかなあ。」
「お母様たちに許可を頂いてからにしましょう。」
アリーシアは母にアポロが孤児院へ行きたがっていることを伝えた。夕食はどんなに忙しくても、父、母、アリーシア、アポロの4人で食べるようにしている。兄は次の長期休暇には帰ってくるようだ。手紙をアリーシアやアポロに書いてくれる。兄はいつも楽しい話を書いてくれる。学校がどんな場所か、どんなことが楽しいか、どんなことを今勉強しているなど面白く兄らしく書いてくれる。
食事のあと、お茶を飲みながらアランの近状をまじえながら、一日の出来事をゆっくり話す時間も家族の大切な時間である。父と母は今でもたまにデートをしていることがあり、2人の時間を大切にしている。父が熱烈に母を好いているようには世間では見られるかもしれないが、実は母もとても父を信頼し尊敬し愛しているのを見ればわかる。子どものアリーシアもたまに恥ずかしくなるほど2人は熱々である。
アリーシアの頼みに両親は少し考えた。父はアポロを見つめた。
「アポロ、孤児院に行きたいか?」
「うん、行きたい!」
「そうか、アリーシアのいうことをちゃんと聞くか?」
「うん。」
「いいぞ。」
父はいくつか言葉をかけるとあっさり承諾した。母は父の言葉に異論はなく笑みを浮かべた。父は基本的に道理が通らないことは、許可しない。アポロを信頼して許可し、そしてアリーシアのことも信頼してくれたのだろう。
「お父様、アポロは外に出て大丈夫?」
アリーシアは小さいアポロが城下街へ出ても大丈夫か、もう一度聞いてみた。
「アリーシアはどう思う?」
父は逆に問いかけてきた。
「私は……アポロが小さいから心配ではあるけれど。最近はお兄さんらしくなってきたし。」
「ああ、アポロはがんばっているな。背も大きくなってきた。」
「剣もとってもがんばっているから、大丈夫とは思うけれど。」
「ああ、アポロは強くなってきたな。」
「強くなったの?」
父は小さく笑みを浮かべた。そしてアポロに視線を向けた。
「アポロ、相手の技量をみて判断するのはわかっているな?」
「うん、強いやつに当たったら全力で逃げる!姉さまを逃がす!」
「その通りだ。無理に全力を出す必要もない、相手を見極めるんだ。」
「わかった!」
アリーシアはアポロの稽古につきあうことがあるが、アポロの強さがわからない。アリーシアもアポロ以外で剣を持つことがないので、相手の技量をはかるなんて芸当はできない。アポロは父と訓練をしていて、そういったことも学んでいるのだろう。父が許可したのなら大丈夫だと判断した。次の孤児院への視察にアポロもついて行くことが決まった。
アポロは屈託のない子どもだから、きっとみんなとも仲良くなるだろう。アポロもアリーシアも本を持って行くのが楽しみになった。
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