たっち

「迷子さんも、多くを語りませんね」

 その言葉に、目を丸くしました。

 手に下げたスーパーのレジ袋。中に収まるアイスキャンデーの箱。袋の隙間から冷たい息を吐くドライアイス。結露は曇りガラスのようで、中は見せませんとも、と隠れさせる。それは太陽から中のものを守るよう。汗が滲んだ坊ちゃんの手はしっかりと袋の取っ手を掴んでいます。手の甲は白く、太陽に照らされてさらに光を増していました。

 朝方、スーパーが開いた頃。陽がまだ強くない時間を見て、私はご飯の買い出しに出かけたのです。そこで偶然にも、坊ちゃんをお見かけし、是非にと仰られたとおりに買い出しに付き合って頂いたのでした。まだ陽は低いのに、変わらず暑く、そして蝉は元気よく。変わらぬ夏の風物詩。

 そういえば、さっきの言葉。

 迷子さん、も。

 どなたと重ねているのかしら。

「いいえ、責めているわけではないのです。ただ、そうだなあと思っただけで」

 坊ちゃんは少し口早にそう言いました。安心してください、と私は笑います。気にしていませんよ。

「そうですね。確かに、私は私のことを言ったことはあまりありませんね」

「はい」

「聞きたいのですか?」

 坊ちゃんは私の顔を仰ぎます。

「はい」

「面白くありませんよ」

 坊ちゃんの大きな藍色は私の顔を写したまま、全く揺れることがありません。

「面白くないから話さないのですか」

 とても純粋。

 何かの皮肉を含んだものではなく、ただそう思ったから、と言うそれだけの言葉。煽っている訳でも、かまをかけている訳でもない、ただただそう感じたというだけの。

 だからこそ、刺さる。

「やはり迷子さんも、同じです」

 みんな同じなのでしょうか、と坊ちゃんは誰に向けるでもなく呟きました。

「自分の昔話を話すのが面白くないとは、不思議な感覚です。いいえ、面白く思いながら話すというのもおかしい話ですが。なんというか、」

 首に汗が伝います。坊ちゃんは足先で小石を蹴ります。ぶつ、と、口を尖らせました。

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