下駄箱
下駄箱
最初の手紙は真っ白の封筒だった。
はみ出さず丁寧に糊付けされ封を施された便箋は、開けるのが怖くなるほどで。鋏で中の宝物になるであろうものを傷付けないように気をつけて気をつけて封を切った。
次の手紙は薄青の封筒だった。
端に四葉のクローバーの絵が描かれたそれは、人によれば小さな子が使うようなものなのだろうけれど、彼がこの便箋を選んだのはどういうわけなのだろうかと、もしかしたら特別なんじゃないかと、嬉しかった。
三番目の手紙は薄桃の封筒だった。
初めて形に残る中身が入っていた、便箋より淡い色の桜の花びらだった。何を語りかけようとしているのか、愚図な私にはとんと検討もつかなかったけれど、私はそれが嬉しくて、嬉しくて。いっとうおきにいりの千代紙を裏に貼って、押し花にした。
四番目の手紙は紺色の封筒だった。
不自然に膨らんでいたから、なにかごろっとしたものが入っているのだろうとは思っていたけれど、封を開けて出てきたものは、青や赤や緑の、いろんな色のガラス玉だった。この世界の全ての色を映したみたいで、見たこともないのに宝石より綺麗だと思った。
四番目の手紙は灰色の封筒だった。
今度は何が入っているのだろうと、どきどきしながら封を開ける。すると出てきたのは折り鶴だった。なんていうこともない白い折り鶴なのだけれど、手触りが妙に違うなあと思った。おばあちゃんに聞きたかったけれど、約束したから、やめた。
五番目の手紙は赤色の封筒だった。
誰が送ってきているのか、もうすでに検討はついている。こんな芸当ができるのはあの人しかいないのだから。封を切って出てきたのは貝合わせの貝だった。洒落てるなあと懐古した。
おばあちゃんに見つかりそうになった。必死で隠したけれど、多分駄目だろう。
六番目の手紙は黒色の封筒だ。
中を開ける。
ああ、やっぱり彼なのだ。
「 」
うん、知ってるよ。
「あなたは変わらず詰めが甘い」
声も聞こえない。姿も見えない。触ることも、言葉を聞くことも、何もできない。私ばかりが無力だ。もう子供ではなくなってしまった。いとしいとしと、心が言ってしまったばかりに。
馬鹿ね、と私は笑う。
「下駄箱に入れるのはラブレターだけなんだよ」
五番目の手紙は黒色の封筒だ。
中に入っていたのは黒い羽だった。
きらきらと光を反射して、とても綺麗だった。
どうして子供に戻れないのだろう。
ねえ、いつ迎えに来るの。
下駄箱に入れるのは恋文だけだと、そんな事はとうの昔に知っている。
愛を囁く嘴は、君の心を啄む。
ああ、馬鹿だとも。
例えこの身見えずとも、心は側に。
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