ダイヤルダイアリヰ
ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。
この鳴き声は、形容し難い、不可思議さを持っている。機械音というには、自然に、溶け込み過ぎている。自然の音なら、あまりに不気味。これは、ほんの少し不思議だなあ、と、首を傾げた隙に、鳴き声はぷつんと、何の前触れもなく、消える、そんなよくわからないもの、だ。そういう時に限って、部屋全体に後味の悪い、何とも言えない、空気が満ちる。電話とは、そういうもの。
「迷路」
「はい」
「電話が」
「はい」
「返事の仕方は」
「わかって、います」
ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。性懲りも無く、今も、鳴き続けている。黒い、プラスチックの、電話は、冷たい。好きではない。
「好きではない、です」
「ほう」
好きではない、と呟いた。隘路は頷く。腕を組んで、壁にもたれている。そして、電話の前で、正座をしたまま、動く様子のない、僕をみている。その表情は、何も感じることができない。責める顔でも、理解に苦しむ顔でも、嘆く顔でも、憐れむ顔でもない。とても無機質、無表情。眉も瞼もその奥の瞳も、何も映さない。
僕はそれに安堵する。
「この電話は、冷たい、––––––です」
「冷たい」
人差し指の爪で、畳を引っ掻く、かしりかしり、かしりかしり。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。ぷぷぷぷぷぷ。鳴き止まない。
泣き止まない。
「この電話は、ぐるぐる、ごちゃごちゃ、ぐにぐに、ねたねた、びちゃびちゃ、ぐじくじ、ぐずぐず、です」
「ほう」
隘路は僕の前にしゃがみ込んで、コンセントの繋がった、電話の受話器を、ひょいと持ち上げる。そして軽く耳に当てた。
「––––––」
「––––––」
「––––––」
「––––––」
「––––––迷路」
「はい」
受話器を耳から外して。
立てた膝、受話器の耳に当てる箇所を右手に、話す箇所を左手に持って。
へし折った。
ばきゃり、と、受話器の断末魔。
泣き声は止んだ。
「これは捨てよう」
《化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんか》
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