中綴じ折本

「これを」

 ぺたん。一枚のA4の紙を、縦に折り曲げる。端を揃えて緩く折り目をつけてから、折り目の中心から外へ指を滑らせるように合わせる。両手の人差し指と中指がするりと紙を撫でる。半分の大きさになったそれを、さらに、今度は横に、折り曲げる。今度は掌を使って、大きく押し出すように力を加える。

 視界の隅で翅虫が転がって羽ばたいた。つつつ、こちらに向かって歩いてくる。かと思えば、また転がる。くるりと向きを変える。ひょこり、ひょこり。ぱた、ぱた。一センチほどしかないその小さな胴体を、倍にしたくらいの片羽は枯葉の色をしていた。濃灰色と焦げた茶色の斑ら模様はつま先のあたりではたり、はたり、踠いている。畳の目をついばんで、その大きな羽は左右に対象に。

 肌の上に水滴が乗っかっているかのようだ。まだ初夏の頃だというのに、空の深い群青は雲の隣をするりと抜けて遠くまで突き抜ける。蝉はまだ鳴いていないけれど、まだ蝉の羽は見えないけれど、夏の足音が耳朶をかすめている。

「迷路は空蝉は集めないのか」

「うつせみ」

「抜け殻」

 ああ、と、首を上下に振る。あの茶色い、よくわからないもの。手足が生えているようで、しかしそれは珍妙というか。まるで芋虫に甲殻類の足が生えて、木や家にしがみついている、例の、あれ。握ればくしゃり、ぱらぱら、潰れ、崩れてしまいそうなほど。柔軟性のない、ぎゅっとしたらばりんという例の。乾ききった皮。踏みつけたら粉になる。

 集めたことは、ない。握りつぶしたことはある。いいや、握りつぶそうとしたのではない。つまんで持ち上げようとした、だけ、だ。けれど、力が強すぎたのか、歪んで割れて力なく地面に転がってしまった。

 隘路は鋏で中心に切り込みを入れる。広げて、畳んでいく、すると、小さな本が出来上がる。

 空蝉。うつせみを、僕は見ていた。その不確かさを、その危うさを。小突けば潰れる世界を、ほんの一週間の視界を。

 いいや、違う、僕がみていたのは、僕がみていたのは。

 蝉、蝉。

 殻を破り背をうんと伸ばした、その白い、何処までも白く滑る肢体––––––

「迷路」

 白。

 眼前に広がる純白。目を瞬く。

「これが、折本。わかりゃったか」

 僕は首を上下に振る。

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