第四六話 人間って、責任ってあなたは……
「〈フィンブル〉応答してください。リペアマシーンが何かを製造しているようですが、一体何を製造しているのですか?」
応答は三〇秒経ってからであった。
遅れた応答にカグヤは不信感を抱く。
――兵器を製造していた。それだけだ。
「……〈地球のマザー〉本体がある地へ進攻するためですか?」
――無論だ。戦力はあるほうがいい。本拠地では何が起こるか分からない以上、用意を怠ってはいけない。
カグヤは理解するもどこか納得しがたかった。
AIとして確かに戦力増強は効率的だ。
〈シートン〉の強化をカグヤが拒んだ以上〈フィンブル〉が別なる兵器を製造するのは別におかしいことではない。
おかしくはないが――応答そのものに遅れたことがカグヤに別なる
――現在〈シートン〉の修復作業は八五%ほど終えている。リペアマシーンを二機、兵器製造に回しても修復作業に影響はない。
「……分かりました」
ともあれAIとしての効率さにカグヤは同じAIとして一定の理解を示した。
「では、製造中の兵器を見せてください」
次いで当然の要求をした。
――必要データを入力した02と06は現在、独自可動で製造中。完成するまで不可能だ。
「どのようなデータを入力したのですか?」
――まず極地対応型。次に大火力と高推力による一点突破。そして生存率を高める防御力と一撃離脱力だ。
カグヤは危うく思考という処理をフリーズさせそうになった。
環境に対応し、尚且つ大火力と高推力、そして屈強な装甲を持つ兵器のタイプはデータベースから一つしか照合しなかった。
「きょ、拠点攻撃型を製造しているのですか!」
攻め込むのならば妥当な兵器だろう。
だが、カグヤとしては下手をして人工子宮のパーツまで破壊してしまう危惧を抱く。
あくまでも目的は〈地球のマザー〉の機能停止であり破壊ではない。
破壊が効率的であろうと当初の目的から完全破断してしまう。
――無論、あくまでも敵防衛網を突破、防壁を破壊するための兵器だ。本拠地である以上、油断はできない。
その時、PiPiと電子アラームが響いた。
カグヤの視覚領域にデータが転送される。
DT用新型ライフルのデータも添付されているが閲覧を後回しにした。
〈Doll Ride Weapon〉
「ドールライドウェポン?」
――通称、DRW。DTの騎乗型強化外装だ。
新たなデータがカグヤに転送され、角錐型のマシーンが3D表示される。
全長一〇〇メートル。全幅三〇メートル。全高一五メートル。重量三〇〇トン。総推力二五〇〇〇〇w。武装は角錐の先端部に螺旋衝撃角――要は大型ドリルが内蔵。機体後部に集約された左右三つずつ、計六つの大型斥力推進器により生み出される爆発的な加速力をドリルと併せることで敵防衛網に文字通り大穴を開ける。
火器システムも完備され、両サイドには大口径ビームキャノンが一門ずつ。大型ミサイルボックスが二つずつ装備されている。また多数の武器を収納する武装コンテナと迅速に現場へと急行させるDTキャリアの役目も持っており、角錐型ボディの背面にDT専用の搭乗シートが設置されている。傍と見てDT搭乗型小型戦艦であるが独自のエネルギー駆動機関を持たず、代わりに電力を貯蔵するEEコンデンサが搭載されている。EEドライブを搭載しない理由は、その高いエネルギー生産率のため。〈フィンブル〉によればEEドライブを搭載せずともEEコンデンサで充分に運用可能と算出されている。あくまでもDRWは拠点突破型、言わばサポートマシン。独自活動は可能だが、このDRWはDTと接続した時にその機能を十全に発揮する造りとなっていた。
「……ふむ」
データを隅々まで余すことなく精通したカグヤは最もな疑問を言った。
「このDRWは誰が操縦するのですか?」
結局は二択である。
〈シートン〉に搭載されたDTは〈ロボ〉と〈ブランカ〉の二機のみ。
搭乗時の識別信号は〈ロボ〉だとDRG-L。
〈ブランカ〉ではDRG-Bと出るようになっていた。
現状を踏まえれば〈ロボ〉が妥当であろう。
サクラが治療用カプセルから出ようと即戦場に出られるわけではない。
治療により劣った体力と筋力を取り戻す時間が必要となる。
『そりゃおれが乗るに決まっているだろう』
通信にソウヤの音声が前触れもなく割り込んできた。
発信源は白き部屋――ではなく、DRWがある沈没船の中からだ。
いつの間に、との驚愕パルスがカグヤを危うくもフリーズさせようとする。
――何ちょっとしたハッキングによるデータ改竄だ。
〈フィンブル〉が平然と打ち明ける。
恐らくは管理システムの一部を改竄することでカグヤの目を誤魔化したのだろう。
いつ外に出たのかは、恐らく二基の〈フィンブル・リペア〉に同行したと予測していい。
沈没船の中より振動音と泡が発し、外皮のように船体が倒壊する。
中より現れたのはDRWであり、搭乗席には〈ロボ〉がドッキングしていた。
識別信号がDRW-Lと出ているのがその証拠だ。
「そ、ソウヤさん、どうして外にいるのですか!」
DTが水中戦用でなくとも深度一〇〇〇メートルの水圧に耐え切れる汎用性を持とうと、今現在ソウヤが〈ロボ〉に搭乗している理由が計算できない。
観測データにより最適な回答を求めようと示しきれない。
『ちぃと出かけるからだよ』
「出かけるってどこにですか!」
「何って〈地球のマザー〉をぶん殴りに」
平然と打ち明けるソウヤにカグヤの負荷処理は倍増する。
不可処理から立ち直る間にDRWが起動。推進部より発する斥力場が波を描きながら海面へと上昇していく。
〈フィンブル〉もDRW-Lに追従しており、カグヤが呼びかけようと応じない。
「戻ってください! わたしの計算ではDRW-Lと〈フィンブル〉の力を合わせようと九三,五%の確立で失敗すると出ています。サクラが戦列に復帰すれば成功率は一〇〇%です。危険すぎます」
『男として責任を果たしてくる!』
ソウヤは言葉を聞かず、DRW-Lは〈フィンブル〉と共に海面から斥力推進器の爆発的な推進力により南へと飛び出していた。
「人間って、責任ってあなたは……」
ソウヤが責任を感じるなど模倣された感情の範疇を越えていた。
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