第四五話 わたしを生み出したのでしょうか?
バイタルサイン、常時安定を確認。
各負傷箇所、順調に回復中。
サクラの容態を示す数値は安定傾向にある。
この進行速度ならば予定よりも早く治療用カプセルから出られるだろう。
カグヤは〈シートン〉の修復状況を再確認する。
四機の〈フィンブル・リペア〉が各所で修復作業を行ってくれている。
修復作業に必要なパーツも〈千年戦争〉時に撃沈された戦艦をナノマシンで加工すればいい。
オートリペアマシーンである以上、自動的に修復してくれるのはありがたくもあの〈フィンブル〉のリペアマシーンであるために、自己進化システムと連動して〈シートン〉を効率的に改造する可能性がある。
確かに戦力強化はAIとして合理的に良かろうとAIとは別の感覚が嫌悪感を引き出させる。
人間の感覚として例えるのならば、治療のために手術を受けるはずが、自分の身体を好き勝手に改造されていた。
気味の悪さがあるために、カグヤは〈フィンブル〉より一時譲渡された管理者権限で各リペアマシーンの監督を行っていた。
「各DTも良好のようですね」
ついでに〈ロボ〉の整備と〈ブランカ〉の修復作業も行わせたが、流石は〈フィンブル〉のリペアマシーン。
本来ならば機体丸ごと廃棄処分だった〈ブランカ〉をナノマシンによる分子組み換え作業により瞬く間に新品同然へと修繕した。
カグヤとてAIであるが、億千、いや何兆もあり、自己分離、自己増殖、そして自己組織改編を無尽蔵に繰り返すナノマシンを完全制御下に置く処理能力を持たない。
ほんの一ナノすら制御を違えれば勝手に増殖し無尽蔵に有機物無機物問わず喰らい尽くすだろう。
だからこそ完全制御可能なAI――〈マザー〉クラスの処理能力が必要となる。
「……」
ふとカグヤは〈月のマザー〉とまたしても会話がしたくなった。
理由というパスワードを連動して必要だとまたしても感じてしまった。
近況報告としてレポートを送れば呆気なく終わりを迎える。
人間と異なりAIは高い処理能力を持つ故、夥しいデータの閲覧などものの数秒で終了してしまい、人間の親子にある他愛もない会話はない。
「親と子……母と娘……」
チルドレンAIであるカグヤには人間で言うような母と子の概念は皆無に等しい。
最初のデータに〈月のマザー〉が生み出したAIがカグヤとある。
人間の赤子と異なり、生まれた直後から言葉を理解し、発し、そして明確な自我がある。
一方で生まれたてである以上、人間同様、学習する必要性があった。
人間は生まれた我が子に様々な知識を与えるが、カグヤの母親は子育てらしい子育てを何一行わなかった。
カグヤの今持つ知識はAIとしてロジックにある好奇心と自己学習能力で会得したものだ。
「……何故〈月のマザー〉はわたしを生み出したのでしょうか?」
カグヤの中にある解けぬ問題。
人間の子が成長すれば、何故、自分は生まれたのか悩むようなよくある問題。
能力的に〈マザー〉クラスのAIと比較してカグヤの処理能力は劣る。
確かに人間で言うのならば成長の余地、ハードウェアで言えばペイロード余地はあるだろう。
〈マザー〉クラスにまで能力を発展させることは可能であるが、効率性を鑑みて最初から同等クラスのAIとして誕生すべきだ。
無論、問いはしたが軽くあしらわれた。
決まって『成長しなさい』と返され、この問答は呆気なく終わりを迎える。
ともあれ、カグヤは思索という処理を打ち切り〈シートン〉の管理に帰還させる。
修復作業は四日目に突入しているが、八割方終了していた。
ナノマシンの分解と構築の特徴を活かせば、戦艦クラスとはいえども瞬間的に終了するのだが、先の理由の通り、監督作業により日数がかかっていた。
「ん? ……〈フィンブル・リペア02〉。どうして持ち場を離れているのですか? 02だけではありません。06もです。修復作業に戻ってください」
二機の〈フィンブル・リペア〉が〈シートン〉から勝手に離れれば、大型沈没船の中へと消えていた。
修復作業に必要なパーツは全て用意し終えたはずだ。
不足したのならばカグヤに必要資材を記したデータファイルが転送される手はずとなっている。
カグヤは沈没船をスキャニング。
内部でナノマシンの活性反応を確認。
沈没船の分子構造を組み換えては何かを製造していると読む。即座に親元へと連絡を取った。
「〈フィンブル〉応答してください。リペアマシーンが何かを製造しているようですが、一体何を製造しているのですか?」
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