検証

 逢原さんが去った後、一人裏路地に残された僕は、他に誰もいないか辺りを見回す。誰もいないことを確認した僕は、ふとメガネを外してみた。

 三度目の嘔吐感、身体が浮くような感覚。

 そして身体が言うことを聞かなくなった。


「やっぱり、メガネが入れ替わりの鍵みてーだな」


 身体が勝手に動く、どうやらまたクロちゃんと人格が入れ替わったようだ。 彼の言うとおり、メガネの着脱が入れ替わりのスイッチらしい。


 クロちゃんは腕をぐるぐるをまわしたり、シャドーボクシングをしたり、気ままに身体を動かす。

 僕はその動きに違和感を覚えた。

 速い。凄く速い。

 シャドーをする彼の拳のスピードがとても速かったのだ。拳を打つたびに、シュッシュッと空気を切る音が聞こえる。


「すげえ、なんか身体が羽みてーに軽いぞ!」


 クロちゃんはハイテンションに身を任せ、その場でジャンプをする。

 僕は驚いた。

 自分の身体が、クロちゃんの身体が高く跳んだ。おそらく、二階建ての建物くらいは飛び越えれそうなくらい、高く跳んだ。

 クロちゃんは膝を曲げてクッションにし、上手く地面に着地した。


「(ねえ、クロちゃん。ちょっと替わってよ!)」


 僕に言われ、クロちゃんは再びメガネをかける。吐き気と浮遊感とともに、また人格が入れ替わった。

 僕はさきほどのクロちゃんと同じようにジャンプしてみる。

 だが、どんなに頑張っても自分の腰くらいの高さが限界だった。


 僕はもう一度クロちゃんに替わってみる。また嘔吐感。


 クロちゃんが再びジャンプするとやっぱり五メートルくらい跳んでいた。


 着地したクロちゃんは近くに転がっていたコンクリートブロックを見つめる。

 そして、何を思ったのか、高く右足を振り上げる。この時、右足と左足の角度は百八十度に近かった。普段の僕はここまで柔軟ではないのに。


 て、そんなことを考えてる場合じゃない。


「(ちょ、ちょっとクロちゃん!?)」

「黙って見てろ」


 僕の心配をよそに、クロちゃんはじっとコンクリートを見つめる。

 そしてクロちゃんは右足をブロック目掛けて振りかざす。

 かかと落とし。

 足のかかとがブロックに接触すると、それは、ガシャン、と少し大きな音を立てて、真っ二つに割れた。

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