こんな夢を見た

赤坂 パトリシア

第1話 PTAでカレーを作る

 土曜日だというのに小学校のPTAが主催する「ファミリーフェスティバル」に参加しなくてはならない。


 フルタイムで働いている母親の土曜日を1日潰す「ファミリーフェスティバル」は、本当に迷惑なものだ。

 PTA総動員で模擬店を出して、その売り上げを学校に寄付するのだが、動員人数を考えると微々たる金額だ。お願いだからその分寄付だけさせてくれと、毎年思う。何が悲しくて1週間くてくてになるまで働いた後に朝早くからカレーを作らなくちゃいけないんだ。

 誰もが文句を言っているのに、恒例行事だから取りやめることができない。PTAの圧力は相当なものだし、こちらとしては子供が人質に取られているものだから、最初に声をあげる一人になるのもなかなか勇気がいる。

 そういうわけで、気が重いまま、朝7時からカレーを作りに出かけるわけだが、こういう日に限って夫は出張だ。というよりもむしろ「ファミリーフェスティバル」がイヤだから出張をこの日にあてたのではないかと私は勘ぐっている。ここ数回PTAイベントは全部私が受け持っている。シングルマザー状態だ。今に見ていろ。離婚してやる。


 気が重い理由の一つは私のパートナーが鈴木さんだからで、私は鈴木さんが苦手である。昨年も、カレーを作る係で一緒になったのだが、マンドラゴラを隠し味に入れると言って聞かなかった。

 そりゃあ、マンドラゴラをカレーに入れる家庭もあるだろうが、私はマンドラゴラは苦手だし、アレルギーがある子供もいるだろう。そもそも「ファミリーフェスティバル」のカレーに誰が隠し味を求めているというのか。あんな頭にキンキン響くもの、普通に考えて好き嫌いが分かれるだろう。

 去年は予算を口実になんとか断ったのだが、今年は自家製有機栽培の鉢植えを持ち込むと昨日の夜電話があった。正直なところ、一体どうすればPTAのイベントにそこまでエネルギーを注げるのか理解に苦しむが、とりあえず、学校までの道のりで野良犬を捕まえなくてはならないことがこれで決定した。隣組の佐藤さんは動物愛護団体でボランティアをしているから見つからないように気をつけなくてはならない。




「ままー、したくできたよ!」

 鬱々とする私の気持ちとは裏腹に、弾んだ声で一年生になったばかりの下の子が声をかける。三年生の上の子の手をぎゅっと握ってちょっぴり緊張した表情なのがほほえましい。

「ティッシュ持った?ハンカチは?水筒には麦茶入れといたからね」

 私は手早く二人を点検する。

「あとは、そうね、PTAのおじちゃんたちのいうことをちゃんと聞くのよ。あんまりふざけないでね。あの人たち銃もってるから」

「おまえ、ひとじちするの、はじめてだもんな!」

 上の子が誇らしげに胸を張る。子供にとってはなんでも遊びなんだろう。




 しかし、いつまで続くんだろう、この、子供を人質にとってのPTA行事。




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