サクラ ~自殺願望者のドタバタ共同生活~

ジャッキーとしお

第1話 原田権三38歳

原田権三(ハラダゴンゾウ)は、勤務先である証券会社を先月一杯で退職した。

権三は38歳独身で横浜にある賃貸のタワーマンションに住んでいる。

明るい性格で一見悩みとは無縁に見える男だが、3ヶ月前、まだ32歳の若さで

妻が交通事故で急死してしまった。妻一筋で生涯を明るく過ごして行こうと楽しい結婚生活を送っていた権三は生きていく気力を失くしていた。


妻、聖子の葬式では100人を超える弔問客が訪れた。呆然と遺影を持って立つ

権三に友人が励ましの声をかけてくれたが権三の耳には全く届いていなかった。


弔問客は口々に聖子の人柄を褒め称え、哀悼の意を表していた。


「聖子、どうして俺を残して逝っちまったんだよ。俺だけじゃない、みんな泣いていたよ。君は明るくて美人で頭が良くて誰からも好かれてた。俺にはもったいないのはわかっていたよ。残った俺はどうすりゃいいんだ?ひとりでこのまま仕事して歳とって死んでいけばいいのかい?」


一週間の慶弔休暇があけて出社した日、入社以来世話になっている上司の元に行き、弔問に来てくれたお礼を述べてから辞表を提出した。


「おいおい、原田君、気持ちはわかるが急に辞めるなんて。少し落ち着いてからゆっくり考えてからにしたらどうだ?君はまだ若いんだから将来があるじゃないか」


「申し訳ありません、良く考えた結果です。僕は妻と将来の家族のために働いていたんです。少し落ち着いたらどこかのんびりした田舎で暮らそうと思います」


その日のうちに退職日までの二週間分の有給休暇を提出し、自分の机も整理して

退社した。


退職後の権三は、家で妻の遺影を見ては泣きながら酒を飲み、妻が毎日餌を与えていた金魚とだけ話しをしている生活が続いていた。再び厳しい社会で仕事をする気力もない。


「俺はもう生きていても意味がない。聖子のところに早く行って向こうで楽しい生活をしよう」


権三は自殺することを考え始めていた。


このマンションの部屋は25階だ。ここから飛び降りれば簡単に死ぬことができる。


「でも待てよ、飛び降りて地面に叩きつけられたら身体はグチャグチャでトラックに轢かれたネコみたいになってしまうだろうな。やっぱりキレイな身体のまま死なないと聖子が悲しむよな。電車に飛び込みも同じだし、他には首を吊るとかかなぁ」


権三は、自殺の方法を色々調べた。


「一番多いのはやっぱり首吊りかぁ、そうだよな、一番良く聞くもんな。でも、誰にも発見されないまま数年も経って白骨化、なんてことになるよな。次に多いのはガス自殺か。なになに?硫化水素自殺が増えている?周囲に危険なガスが広がって非難する騒ぎになる、ってこれじゃダメだな。」


「姿を変えずに簡単に死ぬにはどうすればいいんだろう・・・」


権三はネットで検索した「自殺サイト」のある掲示板にたどり着いた。


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