たった一度の奇跡

やましん(テンパー)

   壊れたラジオ

 ぼくは、古いラジオを集めるのが趣味です。

 あるとき、

「これは鳴らないですから、飾り用ですね。」

 と、いうことで、小さな小さな、少しトランクに似たような形のラジオを買いました。

 家に帰って、単三電池を一本入れてみましたが、確かにうんともすんとも言いません。

「まあ、そういう話だったしなあ・・・」

 とは思いましたが、ぼくには少し予感があったのです。

 それで、新品のアルカリ電池をおろして、電池ボックスに入れました。

 鳴りません。

 そこで、接触が少し悪いのかもしれないな、と思って、電極の当たり具合を調整していました。

 すると、びっくり。

 急に、ザーッという雑音が飛び出したではありませんか。

「やったあ。」

 ぼくは、チューニングダイヤルを調整して、音が出てくる瞬間を待ち望んだのです。

 ああ、そうです。

 そのとき、ラジオからはこんな声がしたのです。

 女の人の声でした。

『わたしは、実はあなたが好きだったんですよ・・・・。』

「やた。出た!」

 ぼくは、もっとよく聞こうとして、ダイヤルをいじったり、ボリュームを触ったりしました。でも、上手くゆきません。

 古いラジオは、スイッチ付きのボリュームを、カシャカシャ回すと、上手く鳴ることがあります。

 それも、やってみました。

 でも、ざーと言う音も消えてしまって、それ以来、とうとう、もう二度と鳴らなくなりました。

 ぼくは、溶接の悪いところがないか、断線がないか、調べてみましたが、特に悪いところは見つかりません。

 おそらく、トランジスターあたりが、ダメになっているのでしょう。

 

 でも、あの一度だけ聞こえた女性の声は、何だったのでしょうか?

 モテたことなど一度もないぼくは、この人生で、ついぞ聞いたことがないセリフです。

 たまたま流れていた、ラジオ番組の中のセリフだったのでしょうか。

 それとも?


 これは、奥様にはないしょのお話です。


 













 

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 たった一度の奇跡 やましん(テンパー) @yamashin-2

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