48 京都の夜
京都へ着いた時、もうどっぷり日が暮れていた。羽黒祐介はすぐさま滝川真司に電話をした。すると翌日が休みなので会ってくれるという。祐介は安心して、京都駅付近のビジネスホテルに宿泊した。
祐介は一人、ホテルの一室で、ベッド横のランプをつけて、事件の情報をまとめたノートを睨みつけていた。夜がふければふけるほど、却って意識がだんだんとはっきりしてくるようであった。もう零時をとうに過ぎたというのに、祐介の神経は鋭くなって、頭の回転は速くなる一方であった。
祐介は寝つけないでホテルから飛び出し、深夜の京都をふらふらと歩いた。何か重大な手がかりを見落としている気がして仕方がなかった。見れば、東本願寺の厳かな山門もこの時間には暗闇の中でしんと静まり返っていた。それに反して祐介の頭の中では、色々な事実が騒がしく頭をよぎっては消えた。
だんだんと東山の方へと向かっているようであった。何条の橋だか知らぬが鴨川を越えて、車の光や音も無い方へとただ歩き続けた。
道に迷ったのかも知れぬ。ここはどこぞと見れば、どうやら南禅寺あたり。南禅寺はライトアップもすでに終わって、深夜の闇の中でしんとしていた。
やることもない。祐介はひとりその場に立っていた。
この事件は不思議だ。一体犯人はいかなる思考をもってこの奇妙な犯罪計画を練りだしたのだろうか。あの怪人という着想はどこからくるものなのだろうか。蓮華を深夜に脅かしたあの一件には一体どういう意味があるのだろうか。犯人はなぜ、そのような仮装をしなくてはならないのか。根来刑事が言うように本当に愉快犯なのだろうか。否、そんなはずはない。やはりこの犯罪は確かな必然性をもって動かされている。そうでなくては、今に至っても、これほど犯人の尻尾が掴めないはずがないのだ。
全ては動機の謎なのだ。あの雪の夜の密室の方法などは難なく解けるものであろう。しかし、もっと事件全体に仕掛けられた大きなからくりが、その外見すら自分には見えていないのだ。そうでなくては、これほどまでに自分が苦しめられるはずがない。
赤沼家の人間にいくら探りを入れても何も出てこないのだ。何故ならば、彼らはそもそも何も知らないのではないか。何かを知っている重五郎は殺されてしまったではないか。だとしたら、手がかりを持っているのは滝川真司と村上隼人の二人ではないか。
二人は何か恐ろしい事実を知っているのではないかという気がして、祐介はやはり寝付けそうもなかった。
そして、祐介はまたふらふらと夜道を歩き始めた。
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