18 フラッシュバック

 地下室にいるのはお人形だよ、と少女はお父さんに言われたことを信じていた。でも、少女はそんなお人形とも仲良くしようと思った。少女は、ある夜、ひとりで地下室の階段を降りていった。ここが、ずっと昔から隠されていた秘密の地下室だということを少女は知っていた。

 少女は、暗い暗い階段を降りていった。静かだった。聞こえるのは少女の足音だけだった。

 少女は、暗い暗い地下室にたどり着いた。外から鍵を開けて扉を開き、少女が地下室に入った。耳を澄ませると、少女の足音とは違う音が聞こえてきた。

 誰かがすすり泣く声だった。もしかしたら、お人形が泣いているのかもしれない。少女は可哀想に思って、そのすすり泣く声の方に歩いていった。

「泣いているのはだあれ?」

 少女が尋ねると、すすり泣く声は消えた。

「だれなの?」

 静かだった。見れば、暗闇の中にぽつりと小さな影が少女を見つめていた。それが何かは少女には見えなかった。

「あなた、お人形なの?」

 そしたら、影が近づいてきた。

 影のふたつの目玉が少女のことを食い入るように見つめていた。

 これが、お父さんの言っていたお人形だということはすぐに分かった。少女はお人形にもう一度、尋ねた。

「あなた、お人形ね?」

「オニンギョウ?」

 お人形と思っていたものは、その言葉が分からないらしく、繰り返した。それは、どこかで聞いたことのある声だった。

「お人形じゃないの?」

「わたし、オニンギョウじゃない」

「じゃあ、あなたはだれ?」

 黒い影は答えずに、少女のことを不思議そうに見つめていた。

「なんで、泣いてたの?」

「暗いから」

「怖かったの?」

「………」

 黒い影は答えなかった。

「わたし、あなたのお友だちよ?」

 じゃあはその黒い影に言った。黒い影は不思議そうな目をした。

「オトモダチ?」

「そう、お友だち……」

「お友だち……」

 そして、もう一度、少女は黒い影に尋ねた。

「ねぇ、あなた、だれ? お名前は?」

 すると、黒い影は言った。

「わたしの名前はマリナ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る