年金崩壊防止犯罪 顛末記

太田 護葉 (おおた まもるは)

第1話 「そうですか 3年ですか」

 「総理も大変ですなあ」

虎丸薬品社長の小峰が、尾崎首相に話しかけた。


「いやあ、核ミサイル問題が今や緊急対応案件として常在化しちょりますので

毎日生きた心地がしませんですなあ・・。」


「いつ日本に核爆弾が打ち込まれるか、国民は戦々恐々としちょります」

八星製薬社長の室津がやや緊張の表情で話しかける。


 ここは深夜の首相官邸。

三人がひそひそと密談中である。


「ところで小峰社長、例の歯磨き剤は順調に消費されておりますか?」

尾崎首相の問いかけに、小峰はほくそ笑みながら頷いた。


「お陰さまで昨年比1.5倍の出荷量となりました」


「ほおーっ、それは上々。 室津さんところは?」


待ってましたと言わんばかりに上半身を前にせり出して

室津が喋り始めた。

「わたしところも上々の売り上げで有難いことに新製品が

爆発的な売れ行きです」


「ほおーっ。 それは、何か秘策でも?」


尾崎首相の問いかけに、室津がこれまた得意そうな顔をして


歯磨き剤の中に低温剤を混ぜて、今までよりもスキッとした

感覚に仕上げました。消費者は細かい成分にまで意識が行きませんから

とにかく表面的な味さえ誤魔化せば何とかなります」


「うちも研磨剤成分を増量しまして、歯を白くするように改良しました。

消費者は、見た目重視ですから、副作用成分には全く興味がないようで」


「ふんふん、ところで、粘膜にすり込まれた各種薬剤が、ガン発症に

貢献してくれるまでにはどのくらいの期間が?」


二人の社長は、一瞬顔をこわばらせながら

「最近は健康ブームで1日に何回も歯磨きをするせいか

期間は随分短縮出来まして、わが社の場合で約3年かと」


「3年か・・・・。室津さんところは?」


「弊社では約4年とみております」


「そうですか・・・・・」

部屋の中に一瞬、奇妙な静寂がよぎった。


三人が三人とも、自分達の会話の不自然さに

良心が咎めた不自然さであった。


そうではあっても、国の年金財政から見た場合

国民にあまり長生きしてもらっても困るのである


 合法的な国民殺戮手段として、歯磨き剤が利用されて

早くも8年の歳月が流れた。

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