死なないおっさん

芹沢 右近

第1話

あれは東京単身赴任時代の6年前ぐらいの話。


会社の飲み会が終わり、最寄り駅から宿舎へ徒歩で帰る道程、駅の自転車置場からフラフラっと自転車が1台飛び出してきた。


なんか動きがおかしいので、観察してみるとどうもかなり酩酊した状態のスーツを着たおっさんが自転車に乗っている。自転車はスポーツタイプ。年の頃は40代前半か。


帰る方向が同じだったので、自転車を後ろから追いかける形になった。

自転車はスピードを増すたびに、ふらつきを増して、道路を蛇行し出した。

そして、鼻歌を唄いながら気持ちよーく蛇行している。


酔っていた私は、これを見て「おっさん酒気帯び運転してんじゃねーよ!転べばいいのに!」と心の中で思っていた。


やがて、私も曲がろうとしていた角で曲がって、消えて行った。

この飲酒運転撲滅の気風でよくあんなことするなあ。警察に捕まればいいのに!


それから、酒気帯び自転車おっさんと同じ角を曲がったとき、道路に大きな物体があるのを発見した。その道は夜は少々薄暗いが、いつもはこんな道の真ん中にそんなものはない。よく見ると人の様だ。


近づいてみると、さっきの酩酊おっさんが自転車とともに転んで、ピクピクと痙攣しながら、倒れてうずくまっていた。

あーあ、自業自得じゃん!ざまあ!と少し満足感を感じた。


しかし、薄暗いとは言ってもここは車道。頻繁に車が通る。さっきまで馬鹿にした酩酊おっさんでも、ここは救助しなければならない。


「おい、大丈夫か!?起き上がれるか!?」おっさんの肩を叩く。


「ゔっ、ゔっ、いでぇーー...痛いよぉー。」おっさんは子どものように小さく叫んで動こうとしない。


「おい!しっかりしろや!はよ起き上がらんと轢かれるぞ!」おっさんに肩を貸し、起き上がらせ歩道に横たえる。ころがった自転車も拾いあげてやった。


おっさんは、肩で息をしていたが、やっとフラフラと起き上がり「あ、ありがとう!」と一応礼はしてくれた。しかし、おっさんのスーツはボロボロで、指とか腕からちょっと出血があった。


「自分で帰れるか?」と問うと、「うん、うん。」と言う。


まあ、歩けるようだし、ちゃんと受け答えもしているし、あんまり私も関わりたくないので、「じゃあ、気をつけて帰れよ!自転車は押して行きなよ!乗ったら飲酒運転でまたコケるで!絶対やで!」と言い残してその場を去った。


後ろからおっさんの「うん、うん...。ありがとう、ありがとう。」という言葉を聞いた。


そして、5分後、歩いている私の後ろから、自転車のシャーという走行音と鼻歌が迫ってきた。まさか!!?


復活した血だらけのボロボロのスーツのおっさんが自転車を蛇行させながら、私を追い抜いて行った...。


飲んだら乗るなって言ったやろーーーー!!!

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死なないおっさん 芹沢 右近 @putinpuddings

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