今
第30話 今日は
ゴールデンウィークが終わり石垣島は本格的な梅雨の時期に突入していた。
梅雨と言っても内地の梅雨のようにシトシトと長雨が続くのではなく、ザッと降り晴れ間が出る事が多いが不安定で梅雨前線の気分次第と言った所なのだろう。
今日は美緒も俺も休みだと言うのに雨模様でパッとしない天気だった。
「なぁ、パパ! 退屈だよ」
「市立図書館でも行くか?」
「ええ、どこどこ?」
「図書館だよ。暑くもなく寒くもなく丁度良い空調で寝るにはもってこいだぞ。なにより静かだしな」
ベッドの上でゴロゴロしている俺をベッド脇の椅子に座りながら美緒が蹴りつけた。
「痛っ! 最近遠慮が無いな」
「バーカ、いつまで寝てるんだよ」
「今、何時だ?」
「もう、お昼前だよ」
「それじゃ、着替えるか。着替えるから出て行け」
「なんで?」
「意味わかんねぇ事言うなよ。き・が・え・る・の」
「着替えれば」
「はいはい」
薄手の綿麻のズボンを脱いで、ジーンズに履き替えて風呂場に向かい顔を洗う。
鏡を見ると盛大に寝癖がついているので手に水をつけてとりあえず撫で付けた。
「飯でも食いに行くか」
部屋に戻り美緒に声をかけると有り得ないと言う顔をして俺を見上げていた。
「その頭で出掛けるの?」
「いけないか?」
「信じられない、美緒が恥ずかしいからここに座れ」
溜息を付きながら美緒の指示通り美緒が腰掛けていた椅子に座ると、美緒がブラシで俺の髪の毛を漉きだした。
「本当に仕事中とギャップがあり過ぎ。もう少し家でもきちんとしてよね」
「家に居る時ぐらい好きにさせてくれよ」
「しょうがないなぁ、美緒が来る前はどんな生活してたの?」
「男の独り暮らしなんて同じ様なもんだろ。ゴミを溜めて部屋は散らかり放題で」
「でも、美緒が始めて来た時はそんなに汚くなかったじゃん」
「まぁ、我慢の限界が来て一応片付けたからな」
「パパの髪の毛ってなんでこんななの? 寝癖が直らないよ」
「昔から一度付いた寝癖はなかなか直らないんだ」
仕方なく風呂場に向かい洗面所で頭から水をかぶり、タオルで拭いてブラシで髪を撫で付けながら部屋に戻った。
「これで良いだろ」
「えっ、あ、う、うん」
美緒と目が会うと一瞬だけ何かに驚いて目を逸らした。
「変な奴だな」
「ちょっと、パパの顔に驚いただけだよ」
「毎日、見てるだろ」
「そうやって髪の毛を上げると……」
「いけてるか? 瑞穂なんかには岡谷はいけてるって言われるけれど。どうも信じられなくてな」
「パパは、今のままでいいの!」
車で東海岸沿いの国道390号線を北上する。
「うわ、ツタヤがある。それに大きなスーパーがいっぱい」
「そう言えばこの辺りにはまだ連れて来た事がないな」
「この辺じゃなくて石垣島も案内してくれた事無いじゃんか」
「そうだな、それじゃ今日は天気が悪いけど東海岸沿いをドライブだ」
真栄里・大浜・磯辺・宮良・白保と抜けて車を走らせていると美緒が首をかしげながら聞いてきた。
「なぁ、何で今日はカセットじゃないんだ?」
「最近、調子が悪くてな。それに遠出する時は携帯を繋いで音楽を聴く方が多いかな。携帯にはお気に入りの歌が入っているからな」
「ふうん、どんな歌が入っているの?」
「小田和正・今井美樹・supercell・Miss.Mondayと……」
「と?」
「アニソン?」
「はぁ? アニメの歌? オタク!」
「オタクなんだからしょうがないだろ」
「それじゃ、今流れているあまり聴いた事の無い曲も?」
「これは、 『supercell』の『さよならメモリーズ』でアニソンではないけど次の『君の知らない物語』がアニメのエンディングで同じグループだな」
「まぁ、良いや。アニメっぽくないから」
「そりゃそうだ。最近のアニソンは有名なアーティストの曲を使ったりしているからな。でも俺が見るのは殆どが深夜アニメで子ども向けには作られてないんだよ。だから美緒が聞いたことの無い曲は殆どアニソンだと思うぞ」
「本当に好きなんだな」
「まぁ、暇つぶしに見ていて嵌ったって感じかな」
「暇つぶし?」
「そうだ、冬場は海に行くわけでもなく。俺はあまり飲みに行く方でもないからな」
「友達と遊ぶとか?」
「その友達が居ないんだよ。若い頃は遊んでいたけどな歳を重ねると結婚して家庭をもつと家庭中心になるからな」
「ふ~ん」
納得したのかしていないのか良く判らないが、美緒は親指を口に当てて何かを考えているようだった。
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