第4話 夢なら
『14歳。7月生まれ』
確かに計算ではそうかもしれない……
「何故、俺のところに来たのかな?」
「家にあった古いアルバムを見ていたらこの写真が出てきた。それで爺ちゃんにここは何処かと聞いたら、お前が生まれる前に石垣島のホテルでバイトをしていた時の写真だろうって」
「それで石垣島までわざわざやって来たっと。でも、よくここが判ったね。あいつが15年も経っているのに俺の住所が書いてある物を持っているとは思わないけど」
俺の言葉に美緒が僅かに反応をするが目を逸らして不機嫌そうにベランダの窓の方を見た。
「もしかして、冨崎のホテルに行ったのかな?」
「…………」
YesでもNoでもなく、美緒は何も答えなかった。
あのホテルに行けば俺の事も多少判るだろう、何故なら俺が仕事をしていた時から変らず勤め上げている旧知のスタッフが今も働いているのだから。
そのスタッフに運良く出会えれば普通に教えてくれるだろう。
それも昔働いていたスタッフの子どもが訪ねて来たのなら大喜びで教えてくれるがここで疑問が一つだけ。
それならば、俺の所に連絡があっても良いはずだ。
連絡先が判らなければ当時のマネージャーだった師匠と呼んでも可笑しくないくらいの加納さんに聞けば一発で判るだろう。
もし、俺が引っ越しをしていたらどうしたのだろうか?
諦めて東京に帰ったのだろうか?
どう見ても大人と一緒に来たようには見えないし、14歳といえば中学2年生位だろう。
「これからどうするつもりなのかな? 俺から話を聞いたら東京に帰るのかな?」
何も言わず美緒は首を大きく横に振った。
「他の誰かと一緒に来た様には見えないんだけど、ホテルや民宿だって14歳の女の子を独りだけでは宿泊させてくれないだろ」
俺の質問には相変わらず何も答えずに、大きなバックからA4サイズの茶封筒を取り出してテーブルの上に置いた。
仕方なくテーブルの上に置かれた茶封筒を手に取り中を見ると数枚の書類らしき物が入っている。
それを取り出して見た瞬間、俺は再び瞬間冷凍された金魚になった。
『夢なら……醒めてくれ……』
茶封筒に入っていたのは転出届けと転校に必要な数枚の届出用紙だった。
そして届出には母親である真帆の署名捺印がされており、ご丁寧に委任状から真帆の免許証のコピーまで用意されている。
石垣市役所に届け出れば何も問題なく受理されるように完璧に準備が整っている。
俺は完膚無きままに叩きのめされた様に届出とにらめっこしたまま、しばし呆然としてしまった。
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