第3話 夢のよう
殆ど使われていない部屋には大きめの円卓があり、新聞やDMそれに通販の雑誌が散乱している。
とりあえず一纏めにして古新聞入れの為に買ってあった籠に放り込み、藤のランドリーバケットに入っている洗濯物をベランダに置いてある全自動洗濯機に投げ込んだ。
洋服ダンス代わりの押入れに付けてあるダークブラウンのウッドブラインドを降ろして、簡単に掃除機で部屋を掃除しはじめる。
「綺麗な部屋じゃないが入ってくれ」
美緒に声を掛けるが入ってくる気配が感じられなかった。玄
関を見ると怪訝そうな顔で玄関のあるキッチンを見回している。
怪しいと言えば怪しいのだろう。
玄関の上には手作りの簡単なラックがあり、土佐銛や古い水中銃に持ち手が木でできているガサミ獲りに使っている銛などがあり。
玄関を入って直ぐ横にあるバス&トイレのドアの横にある壁にはリール付きの釣竿が数本、これまたパイン材で作ったラックに掛けられている。
恐らく彼女が一番気になるのは部屋の真ん中にある作り付けのガラス棚の中にある。
数十はくだらないガンプラなのかも知れない。
そしてその棚の横の柱には専用のホルダーが取り付けられてロード用のバイク(自転車)が掛けられていた。
「どうした、そこじゃ話が出来ないだろう。それとも怪しすぎて部屋に入るのが嫌になったか?」
再び美緒に声を掛けると大きなバックを持ち上げて部屋に入ってきた。
「適当に座ってくれ」
美緒がバックを置いて座るのを見て、徐にキッチンの冷蔵庫を開ける。
ものの見事に空っぽの古い型の3ドア冷蔵庫に飲み物などと言う物は入ってなかった。
「下で何か飲み物を買って来るから待っててくれ」
返事も聞かず自分の部屋の机代わりに使っている押入れのパソコンの横にある小銭を掴んでポケットに流し込んで部屋を出た。
自分の部屋のある3階から小走りで階段をおりて、マンションの直ぐ横にある自販機で紅茶を2本買い階段をゆっくり上がる。
「しかし、何で俺の所に着たんだ? まさか……夢のような事あるわけ無いか」
独り言を呟きながら、心の中の棘が頭の中を過ぎった。
「オタク」
部屋に戻り美緒の前に缶の紅茶を置くなり彼女が発した言葉だった。
寝室の襖を見ると閉めた筈なのに数十センチ開いている。
「まぁ、否定はしないよ」
寝室兼俺専用の部屋にある大きなダブルベッドの枕元の上には本棚が作ってあり、そこには数十冊のコミックが綺麗に並んでいる。
あのガンプラの数だけでも『オタク』と言えるレベルなのだろう。
しかし、普段から自分はオタクだと公言しているので今更言われてもなんとも思わなかった。
美緒の対面に座り、単刀直入に直球で話を始める。
「そんで、俺に何を聞きたいんだ。もう15年も昔の話だ忘れている事の方が多いかもしれないぞ」
「別に聞きたい事があって来たわけじゃない」
「それじゃ、何しに来たんだ」
「言っただろ。父親を探しに来たって」
心のどこかに引っかかる一点を掠めた。
「今、何歳なんだ?」
「14歳。7月生まれ」
心のどこかに引っかかる一点を抉った。
夢のような……話かもしれない……
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