第14話
さてと…由夏の前ではかっこつけたが…
なかなかリスクがあるな…1回しかループできないとなると。
やり直しがきかないってこった。
まあ今まで28年間やり直しが効いたことなかったから今の状況は恵まれているんだけどな。
とりあえず今日は…相川が唯を誘うのを阻止せねば。
「ちょっと淳一聞いてるの?」
唯が少し怒ったように言う。
今は登校中。
唯と一緒に通学路を歩いているところだ。
「ああ、聞いてる聞いてる。箱根、行くんだろ?温泉羨ましいぜ。」
「えっ…なんでそれ知ってるの?」
まずい。
俺今ただ夏休みどこか行く予定あるか聞かれただけだった…
まだ唯から箱根旅行のこと聞く前だったか…。
「あ、いや…その…あれだ……」
「どれよ?」
唯が疑いの目で俺を見てくる。
「ちょ、町内会の福引で当てたんだろ?それが噂になって俺の耳に入ってきたんだよ…。」
もちろん嘘である。
「あー、なるほどね。そういうことね。」
納得するのかよ。
まあ確かに町内の住民の噂話はすぐ広まるくらいに情報網に長けている町だとは思うが。
唯が単純でよかった。
「そういえば唯、花火大会とかは行かないのか?」
「今の所行く予定はないけど。なんで?」
「…いやー…なんとなく?」
「ふーん。」
俺のヘタレ!!
こっちから誘っちゃえば相川が出る幕がなくて済むじゃねえか。
なんて頭で分かっちゃいても行動へと出せないんだよな。
なんか気まずくなりそうで誘えないんだよ。
「花火大会かあ〜。小さい頃淳一と行ったっきり行ってないなぁ。」
「ああ、俺もそうだな。」
「ねえ淳一。再来週の花火大会一緒に行かない?ほらあるじゃない。隣町の花火大会。小さい頃一緒に行ったとこ。浩も呼んでさ。」
「え??花火大会??」
「そうよ、花火大会。い、嫌ならいいけど…」
唯が恥ずかしそうに言う。
「いやいやいやいや嫌じゃない!!!行く絶対行く!!」
「そう。なら約束よ。」
…予想外の展開過ぎてびっくりしたな…
こういうパターンは想像しなかったな。
唯から誘いが来るなんて…
てか花火大会の話題したら普通にこうなったんじゃないか?
とりあえずこれで相川を阻止する必要はなくなったんじゃないか?
…いや、俺が誘われたのは再来週で相川が誘ったのは来春だもんな。
どっちみち阻止しないとな。
それにしてもこれは前進なのではないか?
唯から花火大会誘われるなんて前じゃ考えられないし。
着実に過去を変えてる気がする。
まあ、過去では7月7日以降喧嘩して疎遠になってたんだよな。
「じゅ、淳一はさ…浴衣とか…好き?」
唯が恥ずかしそうに俺の反応を探るような感じで聞いてきた。
「浴衣?ああ、好きだよ。」
「…ふーん……そっか。」
何なんだ?唯のやつ。
唯の浴衣とかめちゃくちゃ可愛いに決まってる。
めちゃくちゃ見たいに決まってるだろ。
「てかもうこんな時間よ淳一!早くしないと学校遅れるわよ!」
唯はそう言うと学校へと走って行った。
今回も教室に着くといきなり相川が唯に話しかけた。
「おはよー!唯ちゃん!今日も可愛いね!」
「い、いきなり可愛いとか!」
唯がまんざらでもなさそうに答える。
唯と相川は隣の席なので俺は後ろからやり取りを眺めている。
さてここまで同じ展開。
ここからが問題だ。
「唯ちゃん、夏休みどこか行く予定ある?」
「家族で箱根行くわよ。お父さんが福引で当てたの。」
「へえー、いいね!他には?」
「他は………花火大会かな…」
「じゃあ、僕と……ってあれ?花火大会行くの?」
相川が予定と違ったといった顔で驚く。
「う、うん。」
あれこれってもう阻止できたんじゃ?
「その花火大会って来週のやつ?」
「いや…再来週よ。」
「あ、じゃあ来週のやつ行こうよ!丸滝川でやるやつ!」
「わ、私を誘ってるの!?」
あ、まずいこれまた同じ展開じゃ…
「うん、唯ちゃんを誘ってる。」
相川が真剣な顔でそう言った。
すると唯は今回も俺の方を振り返り何か言いたげな顔をしたが、俺が視線をそらすと唯も視線をそらし相川の方へ戻った。
「いいけど…花火大会…行っても…。」
「やったー!じゃあ来週花火大会!約束だよ!」
「う、うん。」
相川は嬉しそうにそう言った。
そして唯はまんざらでもなさそうに頷いた。
また…阻止…しそこねちまった。
「……それでなんで阻止できなかったのよおじいちゃん。チャンスはいくらでもあったじゃない。」
「阻止するタイミングが分からなかったんだよ…それに今回は唯が断ると思ったし…」
由夏は呆れたようにはあとため息をついた。
「おじいちゃんがモテない理由が分かった気がするわ。」
「何だよそれ…」
あれから俺は学校が終わった後すぐに家に帰った。 そしてふて寝しようとしたところいきなり由夏が現れたってわけだ。
前回由夏が現れた時にあれだけかっこつけたことを言った手前由夏と顔を合わせづらい…
「もうループできないのよ。おじいちゃんには期待してたのになあ」
由夏が追い打ちをかけるように言う。
「うう…分かってるわ…そんなこと。」
こいつ落ち込んでる相手に追い打ちをかけるようなことを言うなんて誰に似たんだ?
唯か?唯なのか?
「まあ、でも唯おばあちゃんから誘ってきたのは予想外だったわ。」
「それな!それなんだよ。これはここ最近の俺の行動が素晴らしかったからじゃね?」
俺がそう言うと由夏はあからさまにこいつ何言っちゃってるのといったジト目で俺を見てきた。
「……おじいちゃんほんとに落ち込んでるの?てかちょーしに乗らないでって前にも言ったでしょ。今回も唯おばあちゃんに誘われたからってちょーしに乗って油断してたんだから。」
「……何も言い返せません。由夏さん。」
ぐうの音もでないとはこういうことかというほど的を得ている。
「そういう正直なとこおじいちゃんのいいとこよね。そこは褒めてあげるわ。」
にっこりした笑顔で由夏はそう言った。
「まあ、今回花火大会の誘いを阻止するのは失敗したけど、唯おばあちゃんからの方から誘いが来たんだからまだ可能性は残っているわ。まあ花火大会阻止できなかったとしてもまだ間に合うんだけどね。」
「え、そうなの?まだ間に合うのか?」
結構重要な出来事だと思うのだが。
11年前の俺は唯が相川と花火大会に行ったことさえ知らなかったからこの出来事の重要さは確かにはわからないが。
「思い出したら?唯おばあちゃんと相川さんが付き合い始めたって聞いた日よ。その時までに自分のできることをやる。いいわね?」
「はい!頑張ります!」
俺は元気よくそう返事をした。
「まったくどっちが年上なんだか…とりあえず次のおじいちゃんの課題は自分からアクションを起こすこと!女の唯おばあちゃんから誘われるんじゃなくて自分から誘いなさい。いいわね?」
「おう、分かったよ。やってやるぜ!」
「……その言葉が嘘にならないように祈ってるわ。」
そう言うと由夏は姿を消した。
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