猫人小伝妙『尾張のトラ』

今村広樹

前篇

戦国せんごく時代じだい、多くの大名だいみょう天下てんかを狙っていたと思われがちだが、実際はそんな事もなく、大概は、縄張り争いで縄張りを広げようとしか思っていなかった

そんな中で

大内おおうち義興よしおきや、三好みよし長慶ながよしみたいに、将軍しょうぐんちょうていを動かすキングメーカーになりたいにゃ』

という野心を持つ者もいる

織田おだ信秀のぶひでもその中の1人である




尾張おわり守護しゅごだいの家臣であった彼は、父より継いだ経済力と、巧みな立ち回りで、じょじょに勢力を拡大し、

尾張のトラ

と言われるほどの、権勢を持つようになった

風貌はアメリカンショートヘアの血が色濃い雑種で、端正な顔をしている

白い毛並みと、しっぽの縞模様が特徴的で、渾名である『尾張のトラ』はそこから来ていたという

彼は、尾張守護である斯波しば氏の名前を使って(細川ほそかわ畠山はたけやまと並ぶ家柄)、幕府ばくふ政治に食い込もうともくろんでいる




そんなある時、信秀は隣国、美濃みのに出兵することになった

かの地の守護、土岐ときよりあきが、自身の部下である斎藤さいとう道三どうさんによって追放されるという事件が起きたのである

頼芸は尾張に逃れ、尾張勢や越前えちぜん朝倉あさくらの力を借りて再起しようとする

本当は出兵したくはないのだが、過去に因縁がある尾張勢としては、座視する訳にもいかず、今回の出兵となった

しかし、信秀としては

(互いに潰しあってる隙に、漁夫の利を得るにゃ)

と考えていた

ところが、斥候せっこうにに出していた丹波たんばというニンジャからの報告で、すでにいくさが終わった事を、信秀は知る

『うにゅ、どういう事にゃ?』

『ハイ、ドウヤラドウサンとイウモノ、ソウトウなイクサ上手のヨウデ』

『うにゅにゅ、今回は引き上げといた方がよにゃそうにゃね…』

しかし、信秀はいつか道三と雌雄しゆうを決さねばならない、と思った

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