おじぇなんしぇ!残念半島

侘助ヒマリ

プロローグ

おじぇなんしぇいらっしゃいませ!磨臼半島”


 木屋戸きやと湾から吹き上げる潮風が、年季の入った薄い鋼板の立て看板をカタカタと揺らした。

 半島へ向かう国道沿いの電柱に錆びたワイヤーで括りつけられた歓迎の言葉の横には、“磨臼まうす半島行政事務所”という二十年前の行政改革で組織改編を余儀なくされた昔の組織名がそのまま残されている。

 平日の昼間、海と山に挟まれた唯一の幹線道路を通るのは、ほとんどが磨臼ナンバーの地元車だ。


 日本有数の観光地。

 S県のドル箱。

 そんな言葉でもてはやされ、週末ともなると首都圏からの観光客が駅に温泉街に海岸にと大挙して押し寄せてきたかつての半島の栄華は見る影もない。

 大型テーマパークやアウトレットを擁するお洒落なリゾート地に客を奪われ、磨臼半島に残されたのはゴーストタウンのような温泉街と、一時間に一本のリゾート列車が停車する駅。うらさびれた旧型の遊園地。そして衰退しきった観光業に今なおすがりつく地元住民たちであった。


 誰が名付けたか、“残念半島”。

 かつてのS県のは、企業誘致や再開発による人口増加で発展の一途をたどる県内の他市町村からすれば、もはや道路整備事業費や観光振興補助金などを浪費するだけのとなっていた。


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