番外編 ハーロウィーン

 今日に限りこの世界にもハロウィン(っぽいの)が存在します。

 それでは本編をどうぞ。


「トリックオアトリート!」


 そう言ってライズの部屋に飛び込んできたのは、魔女の格好をしたラミアと小悪魔の格好をしたドライアド、それにカボチャの着ぐるみを着たハーピーだった。


「……ああ、ハロウィンか」


 ハーロウィーン、もはや起源をまともに覚えているものはほとんど居ないが、とりあえず分かっているのは子供(子供以外も含む)が特定の魔物などの仮装をする事でお菓子をもらう行事だ。


 一応魔よけの儀式の一種だったらしいと言われているが、それを気にしているものもほとんど居ない。

 何しろ魔物はそこら中にいるし、墓場や古戦場に行けばアンデッドも普通に存在するのだから、古めかしい魔よけの儀式よりも攻撃魔法や退魔の術の方を人々は選んだ。

 結果残ったのはお菓子がもらえる行事という変わり果てた姿だった。


「ちょっと待ってろ。えーっと……何もないな」


 当然ながら、ハーロウィーンの存在を忘れていたライズがお菓子のストックを用意している訳もなかった。


「ではイタズラですね!」


 ラミア達が嬉々としてライズにイタズラを始める。

 ある者は頬ずりをし、ある者はほっぺにキスをし、ある者は膝の上に乗って頭を撫でる事を要求する。


(これってイタズラなんだろうか? というか、祓われる側の存在が祓われる魔物の仮装をするって本末転倒じゃね?)


 などと思いつつも、可愛い魔物達の要求なので素直にイタズラされるがままになるライズであった。


 ◆


「一応、お菓子の補充をしておくか」


 ラミア達だからこの程度で済んだが、他の魔物のイタズラとなるとどんな恐ろしいイタズラが飛んでくるか分からない。

 なのでライズは町に避難してイタズラ回避用のお菓子を買い込みに行く事にした。


「お菓子くださいなー」


「あらあら、ライズさんもハロウィンかい?」


 カウンターに腰掛けていた老婆がライズに飴玉を差し出す。


「いやいや、貰う側じゃなくて、あげる為に買いに来たんですよ」


「あれまぁ、そりゃあ悪かったわねぇ。お詫びにその飴はサービスしとくよ」


「どうも」


 うっかりお菓子をせびりに来た子供と勘違いされたものの、ライズは無事お菓子の補充に成功したのだった。


 ◆


「……トリックオアトリート」


 お菓子を補充した帰り道、ライズにそう囁く声が聞こえた。


「ん?」


 見ればカボチャを頭にかぶった子供達であった。


(へぇ、こりゃ珍しい)


 子供達の姿に、ライズはかすかに微笑むとお菓子を差し出す。


「ほら、みんなで分けな」


「ありがとうお兄ちゃん」


子供達はライズにお礼を言うと、町とは真逆の方向に走っていった。

だがライズはソレを咎めない。

咎める必要がないのだ。


「ほんと珍しいな、本物のカボチャのお化けが出るなんて」


 そう、子供達は、本物のカボチャを頭に載せたカボチャのお化けだった。

 ジャックオーランタン、それが子供達の名前である。

 使者の魂が現世に形を持った者といわれる魔物。

 彼等は大人にお菓子という優しさを求める子供達の霊なのだ。


「これであの子達も安心して親の下に行けるだろうな」


 ハーロウィーン、それは若くして死んだ子供の霊を慰める親達の供養の儀式。

 けれど、戦が終わった今、それを知っている人間は少ない。


「さて、帰るか」


 ささやかな善行を旨に秘め、魔物使いは家族の下に帰った。


 ◆


「「「「「トリックオアトリート」」」」」


「oh……」


 家でもある事務所に戻ったライズは、何の為に己が町に買出しに行ったのかを今になって思い出したのだった。


「えっと……今、お菓子ないんであとで……」


「「「「「イタズラだぁぁぁぁぁ!!」」」」」


 数瞬後、可愛い魔物達にもみくちゃにされる魔物使いの姿があった。


「……しまった、出遅れた」


 そしてその影で、一人の女騎士が必死で選んだお化け衣装を着たまま悔しがっていたのだった。

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