第82話 追う者と探す者

「まさかこんな理由で王都に戻る事になるとはなぁ」


 封魔の術宝を偽物のジンラに盗まれたライズ達は、ケットシーからの情報を得て、街道を歩いていた。


「仕方ないわよ。今回の件は国全体に関わる大事、聖騎士の偽物が現れた以上、ただの泥棒とも思えないわ。間に合うなら急いで賊を捕まえないと」


 とはライズに同行してきた聖騎士のレティだ。

 彼女は封魔の術宝が盗まれたと聞いて、ライズに同行を申し出て来た。


「けどレティまで来る事は無かったんじゃないのか?」


「そうはいかないわよ。私はライズの護衛をかねてあの町に来たんだもの。だからライズが行く場所に付いて行くのは当然でしょう? っていうか、この会話前もしたわよ」


「あ、そうだっけ?」


「それよりも、まだ術宝を盗んだ犯人には追い付けないのかしら? このままだと本当に王都まで行っちゃうわよ?」


 馬に乗ったレティが、手を水平にして眉のあたりにあてて街道の先を見る。


「賊に魔物使いか魔法使いが居るなら、今頃に術宝は王都だろうな」


 相手が素直に街道を歩いて目的地に向かうとは思えなかったライズは、既に空を飛べる魔物達に偽ジンラを捜索させていた。

 だが彼等の懸命の捜索の甲斐なく、地上から追跡するライズの下に朗報は訪れなかった。


(あれが変身魔法の類なら、間違いなく犯人は別の姿になっているだろうからなぁ)


「とにかく、王都までついてしまったのなら、そこで情報収集だ。俺も王都の知り合いに頼んで情報集めに協力させてもらうからさ」


「誠申し訳ない! 我々がふがいないばかりに偽物などに術宝を奪われてしまった!」


 ジンラが拳を握りしめて悔しがる。


「誠申し訳ありません!」


 そして後ろに控えるジンラの部下達もまた腰を90度に曲げてライズに謝罪してきた。


「ライズ殿が命懸けで手に入れてくださった術宝を奪われてしまった事、深くお詫び申し上げます!」


「我等不徳の至り!


 何故か妙に暑苦しい感じのジンラの部下達が謝罪をおこなってゆく。。


「いや、そんなマジで頭下げなくても」


 そのマジ謝罪にちょっぴり引くライズ。


「おお、お前達! 現場に居なかったにも関わらずそこまでの責任感を! それでこそ我が部下よ‼」


 何故かジンラは部下達の姿勢にいたく感動して涙を流す。

 ライズとレティはその光景を呆れた目で見つめていた。


(本物はこういう人だったのかぁ)


「よーし! 必ずや偽物と捕まえて術宝を奪い返すぞぉぉぉ‼!」


「「「おぉぉぉぉぉっ‼」」」


 ◆


 所変わってここは王都。


「ふむ、教会に術宝を持ち込む人間は居ないか」


 メルクは部下からの報告で盗まれた術宝が王都の各神殿に運び込まれないかと、部下に見張らせていた。

 だが監視の甲斐なく、神殿に術宝が入っているであろう大きさの荷物が運ばれる事は無かった。


「どこか別の場所に運ばれたか? けど王都の門は全て検閲をかけている。少なくとも王都から出てはいない筈だ」


 メルクが言う通り、彼は神殿の監視と共に王都の出入りをする為の門をに検閲を命じ、ある程度の大きさ以上の荷物を持つ人間を調べる様に命じていた。

 だがそれだけでは調べきれずににげられる可能性があった為、魔法使い達も動員して魔力を放つマジックアイテムが無いかを魔法で調べさせていた。

 術宝は悪魔の力を封印した品、つまりそれ自体が只の器ではなく、マジックアイテムと言えるからだ。


(けど、これを抜ける事が出来るのなら、僕の手には負えない案件か、将軍以上の政治力を持った相手が犯人と言う事になる。いざという時は別の上司の下に逃げる事も考えないとな)


 さらりと上司を見捨てる事も考慮して今後を想定するメルク。

 と、そこにメルクの部屋をノックする音が響く。


「はーい、入って良いよ」


 メルクが入室の許可を出すと、彼の直属の部下が入って来る。


「何用だい? またフリーダ将軍のお呼び出しかな?」


「いえ、ライズ=テイマーが王都に向かってきております」


「何だって⁉」


 部下の報告に思わず声を上げて立ち上がるメルク。


(どういう事だ? まさかフリーダ将軍が盗んだ事がバレたのか⁉ けど詳細は僕と将軍しか知らない筈。まさか例のスパイが情報を流したのか⁉)


 メルクはライズに協力していると勘違いしている何者かのスパイがライズに情報をもたらしたのではないかと考える。


(実行犯から情報が漏れたのか? それとも我々の行動は筒抜けなのか⁉ いずれにせよヤバい!)


 完全に勘違いなのだが、後ろめたさのあるメルクはその可能性を事実だと勘違いしていた。


「ライズ=テイマーの動向は逐一報告してくれ。ただし近づきすぎるな。彼の従魔は人間以上の間隔で近づくものを察知する!」


「承知いたしました」


 メルクの指示に従い、部下が部屋を後にする。


「まいったぞぉ、フリーダ将軍だけでも面倒なのに、ライズの相手までしないといけないのか!」


 こうして、メルクの孤独な勘違い暗躍が始まるのだった。

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