第54話 聖騎士が来た!

「ライズさーん、そろそろお昼ご飯を食べに行きましょうよー」


 魔物達の世話に夢中になっていたライズの背中に声がかけられる。

 ライズが振り向くと、そこには声の主である少女カーラが立っていた。


「ああ、もうそんな時間か」


「町の皆はとっくにご飯を食べに行ってますよー! ライズさんもちゃんと休憩を取らないとダメですって!」


 カーラはプンプンを肩を怒らせてライズを叱る。

 先日のジュジキの沼での悪魔退治に間に合わなかったカーラは、事の詳細を調べると言ってデクスシの町に滞在し続けていた。

 そして調査と称して新しくライズの従魔となったリザードマンのゼルドに付きまとい悪魔退治の顛末を何度も聞いていたのだ。

 その度にゼルドは、


「その話は何度もしたであろう! 戦いはライズ殿のドラゴン様が行い、我は止めを刺させてもらったに過ぎぬ!」


 と、辛うじて族長モードでカーラに応対するゼルド。

 普段はあのように族長としての威厳を見せた振る舞いをするのだが、テンパってしまうととたんに本性が出てしまう悪い癖があった。


 そしてその度にカーラはこう言う。


「繰り返し聞く事に意味があるんですよ。ほんのわずかな違和感から、悪魔についての詳細な情報を積み重ねていくんです! 恐ろしい悪魔を倒す為には、情報が多いに越した事はないんですよ!」


 カーラの言い分は、研究者としてもっともな言い分であった。

 それだけカーラの祖母であるミティックが、現界した悪魔を危険な存在だと警戒している事が伺えた。

 ただ、それ以外の時のカーラを見ていると、ライズの魔物達と遊び呆けているようにしか見えないので、もしかしたら村に帰る時間を一秒でも遅らせる為の作戦なのかもしれなかった。


「ところでカーラはいつまで町に居るんだ? 帰るのが遅くなると村の人達が心配するんじゃないか?」


 ふと思った疑問を口にするライズ。


「それなら大丈夫です! 村にはハーピーちゃんに頼んで手紙を贈ってありますので!」


「いつの間に」


 そういえば最近ハーピーが起こしに来なかったなと気付くライズ。


「ドライアドさんにお願いしたら引き受けてくれましたよ?」


「むぅ」


 更に知らない話を聞いて、後で詳しい説明を聞こうと決意するライズであった。


 ◇


「何だ?」


 食事の為に町へとやって来たライズ達は、町の中が騒がしい事に気付いた。


「何かあったんですか?」


 ライズ達は人だかりが出来ている場所へとやってくると、近くに居た顔見知りの町人に話しかける。


「おおライズさん! 丁度いいところに! お宅の魔物が変な騎士様達に因縁を付けられているんだよ」


「は?」


 どういう事かと問いただそうとしたライズだったが、その直前に上がった悲鳴にさえぎられる。


「何だ!?」


「覚悟するが良い邪悪な魔物よ!」


 人だかりの向こうからのっぴきならないセリフが聞こえてくる。

 これは良くない状況だと確信したライズは人だかりを掻き分けて中へと入っていく。


「ちょっとすみませんよっと……っ!?」


 そして人だかりの最前列へと出たライズは、派手な装飾の騎士達が従魔であるミノタウロス達に剣を向けている現場に出くわした。


「ちょっと待った!」


 状況も分からず制止するライズ。


「っ! 旦那!!」


 ライズの姿を見た魔物達が安堵の溜息を吐く。


「何だ貴様は?」


 先頭の騎士がライズの姿を胡散臭そうに見てくる。


「そこの魔物達の主です」


 そう言いつつも騎士達を観察するライズ。


(俺が現れた途端魔物達から意識を外した。警戒している様子も魔法防御も張っていない。実戦経験が足りないのか? それに鎧が綺麗すぎる。傷も少ないし、何より無駄な装飾が多すぎる。何だこいつ等? 騎士団の新人か? いや、それだと年齢が合わんか)


「貴様が、この魔物共の? そうか、お前が魔物使いとか言う下賎な輩か」


「っっっっ!!」



 騎士の発言にライズが怒る前に魔物達が殺気を発する。

 だが騎士達はそれに気付く様子は無い。


「まったく、街中で魔物を放置するとはとんでもない無能な魔物使いも居たものだ。いや、そもそも下賎な魔物に働かせて自分は楽をしようなどという根性が下賎極まりない」


 言いたい放題だ。

 周囲の町人達は騎士達を不快そうに見つめ、魔物達は今にも爆発しそうである。


「そうだ貴様、魔物使いならばライズという男を知らんか? ドラゴンを使役するとか言うペテン師だ」


「ライズ、ですか?」


 まさかのご氏名に驚くライズ。


「そうだ。今回我々がこの様な小汚い町に来たのも、そのペテン師に罰を与える為なのだよ」


「ええと、一体その男が何をしたのでしょうか? そもそも貴方様がたは一体?」


 ライズが問うと、騎士達は良くぞ聞いてくれたといわんばかりに自己紹介を始める。


「ふん、名乗りもせずに我々の名を聞くとは所詮は平民か! だが良いだろう。選ばれた我々は寛容だ。教えてやろう!」


 騎士はバサリとマントを翻すと、高らかに自分達が何者なのかを叫んだ。


「我等こそは、教皇様によって選ばれた誇り高き神の使徒、聖騎士隊である! そう聖騎士なのだ! そこらへんの泥臭い騎士などとは格が違うのだよ! 我等は邪悪な悪魔を退治する為の専門の訓練を受けたエリートの中のエリートなのだ! フハハハハハ!」


 聞いてもいない事まで説明してくる聖騎士。

 もしかしたら聞いて欲しかったのかもしれない。


「そして私は団長のエディル=ロウ!」


「私が副団長のサヴィル=ライド」


「第一部隊隊長レッジ=トラストである!」


 聖騎士達が次々に自己紹介を始めていく。

 その光景を見たライズは、自己紹介を聞き流しながら思った。


(こいつ等、教会の飼い犬か。たぶん悪魔退治の仕方しか教えられて無いから実戦経験が無いんだろうな)


 鎧がキレイすぎる理由からエディル達の実戦経験の無さを確信するライズ。


「我々がここに来たのは、近くに悪魔が出たと偽りの報告をし、聖騎士団に無駄足を踏ませた愚か者を懲らしめる為だ!」


 恐らくはジュジキの沼に現れた悪魔の事を言っているのであろう。

 レティが騎士団に報告をしたものの、結局彼等が現地に到着する前にライズが事件を解決してしまった為に無駄足を踏んでしまった。

 その腹いせにやってきたであろう事は誰の目にも明白であった。


(面倒だが、ちゃんと対処した方が良いな。ほうっておくと後々面倒な手合いだ)


 内心で溜息を吐きながらライズは聖騎士達の相手をする事にする。


「成る程分かりました。私もライズという男の事は知っていますので、ぜひご案内させて頂きますよ!」


「おお、下賎な魔物使いの割には理解が早いではないか」


 ライズが協力的な態度を見せた事で上機嫌になるエディル。


「ですがもうお昼です。まずはお食事をされてからにしては如何ですか? そこの宿屋の特性オムライスはこの町の名物料理です、味も大変宜しいので土産話にもってこいですよ」


「ほう? この程度の町では味など期待できぬであろうが、まぁ話の種だ。食べてやろう」


 実はおなかが空いていたのか、聖騎士達は案内されるがままに店へと入ってゆく。

 その姿を見ながら、ライズはほくそ笑んだ。


(久しぶりに高慢ちきな連中で遊んでやるか)


 その笑みを見た人々は後に語る。


「ありゃどっちが悪党だか分かったモンじゃない笑顔だった」


 ……と。

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