第55話 聖騎士オムライスを食べる

 聖騎士を伴って宿に入ったライズは店員にオムライスを注文する。


「こちらのお客さん達に特製オムライスをお願いします」


「はい、特製オムライスね!」


「あ、俺達の分もよろしく」


 ライズは自分とカーラの分もついでに注文していく。


「おい、席は何処だ?」


 ライズに連れてこられたエディルがテーブルを探す。


「ええっと……テーブルは埋まっていますね。カウンターなら開いていますからそちらに座りましょう」


 と、カウンターを勧めるライズだったが、聖騎士達はテーブル席のほうへ向かってゆく。


「おいお前等、ここはこれから我等が使う。貴様等はどけ」


 なんと騎士達は横暴にもテーブル席を使っている客達に無理やり退席する様に威嚇を始めた。


「ちょっと困りますよお客さん!」


「何だ貴様? 我々に文句があるのか?」


「ひっ!?」


 苦言を呈する店員だったが、聖騎士の一人が剣に手をかけたのを見て悲鳴を上げる。

 あまりの横暴ぶりに、これ以上係わり合いになりたくないと思った客達が別の席に逃げてゆく。


「ふん、素直にそうすれば良いのだ。我々聖騎士は貴様等を守る為に戦ってやっているのだからな」


 傲慢にも程がある押し付けの言葉に店内の雰囲気がいっそう悪くなる。


「おい、早く料理を持って来い! いつまで待たせるんだ!」


 先ほど注文したばかりだというのにもう待ちきれないと厨房に文句を言う聖騎士達。横暴にも程がある光景である。


(ガキだなコイツ等。アイツ等と同じ人種だな)


 聖騎士達の振る舞いの酷さに内心顔をしかめるライズ。

 彼等の行為にかつて軍隊に所属していた時に横暴の限りを尽くしていた貴族騎士達の姿を重ねるライズ。


「おい貴様、我々をここまで待たせるんだ。不味い料理だったら唯では済まさんぞ!」


 エディルが底意地の悪そうな顔でライズを脅す。


「ご心配なく。この店のオムライスは王都でもめったに市場に回らない特別な卵を使っていますので、味に関しては間違いなく保障できますよ」


「ほう、随分と吹くではないか。それではまってやろう。王都で手に入らないという卵、楽しみにさせてもらうぞ」


 金属鎧を纏った身体を椅子の背もたれに寄りかからせ、エディルは料理を待つ事にする。

 後ろからギシギシと聞こえる椅子の軋み音が聞こえ、その場の不穏な空気をいっそう助長する。


「お待たせしました! 特製オムライスでございます」


 店員が次々に聖騎士達の前にオムライスをよそった皿を置いていく。


「ふむ、匂いはなかなかだな。だが大事なのは味だ。コレで不味かったら貴様には責任を取って貰うからな」


「承知致しました」


 意地の悪い笑みを漏らすエディルに対しライズは飄々とした様子で受け流す。


「ふん……どれ、食べてみるか」


 エディルはスプーンを手にとって、トロトロフワフワのオムライスをくりぬく様に掬い上げる。

 そしてほかほかのライスに乗った卵を丸ごと口の中に入れた。


「…………っ!?」


 エディルの目が大きく見開かれる。


「これは、何だ!? 何だこの濃厚さは!?」


 エディルは驚いた。コレほどまでに濃厚な卵を口にした事は今まで一度たりとも無かったからだ。


「違う! 確かにこの料理は王都の卵料理とは訳が違うぞ! 料理そのものは当家の専属料理人の繊細な技術とは比べ物にならない粗野な物だが、それを気にならなくさせる程の濃厚な旨みが卵から感じられる!」


 気が付けば聖騎士達は夢中でオムライスを食べていた。

 

「卵だけじゃないぞ、中に仕込まれた肉は適度な歯応えと肉汁で飽きさせない満足感を与えてくれる」


「それに何か香辛料も混ざっているな。時折触れる香辛料が肉の臭みを消して卵の味を変化させてくれる」


 聖騎士達は特製オムライスの味に夢中になっていた。


「おい! これは一体何の卵なんだ!? 卵だけではない、肉も普通の牛や豚ではないぞ! 何処の牧場で育てられた何という家畜なのだ!? これは王都に持ち帰る価値のある味だ!」


 特製オムライスの味の虜となったエディルが材料となった食材について問うてくる。


(やっぱりな。騎士団といえば任務中は保存の効くマズいメシが基本だ。王都にいる間は良いものが食えても、リザードマンの集落から直接この町に来たのなら碌なものを食べてないのは間違いない)


 ライズはニヤニヤとしながらエディルに話しかける。


「さすが聖騎士様。この卵のみならず他の食材も特別なものだとお気づきになられましたか」


「当然だ! 我々は聖騎士である前に貴族だからな。王都の美食は食べつくしているとも!」


「成る程成る程」


 更にニコニコと笑みを浮かべるライズ。


「さぁ、食材について教えろ!」


「ええ、お教えしますとも」


 ライズはエディルの皿を指差してそれらの食材の名を告げる。


「この料理に使われているのは出すね。コカトリスの卵とバジリスクの肉、それにマンドレイクの乾燥粉末を香辛料として使用しています」


「……何?」


 食材の名前を聞いて固まる聖騎士達。


「つまり、皆さんが食べられたのは魔物の肉や卵という訳です」


「「「な、なんて物を食わせるんだ貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」」」


 町中に響かんばかりの大音量の叫びが、食事時の町に響くのだった。

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