第5話 朝のお勤め

「クギャァァァァァァ!!」


 朝日と共にコカトリスが鳴き声をあげると、牧場の魔物達が目を覚ます。

 即座に動き出す者、のっそりと目を覚ます者、体が温まるまでボーっとする者。

 種族によって行動は様々だ。


 そんな中、誰よりも早く行動を開始する者達が居た。


「今日もライズ様を起こすのは私ですよ~♪」


 御機嫌な様子で掘っ立て小屋のドアに手をかけたのはライズの従魔であるハーピーだった。

 空を飛び、地を這う獣を狩って生きる空の乙女。

 鳥の魔物である彼女の朝は早い。

 彼女はライズに朝の挨拶をする為に我先にとやって来たのだ。


 だがそれを狙うのは彼女だけではない。


「お待ちなさい、ご主人様に挨拶するのは私の役目ですわ!」


 ドアに掛かっていたハーピーの翼が緑の鞭で弾かれる。


「あ痛っ!」


 ハーピーは柳眉を吊り上げながら自分の翼を弾いた張本人

に向き直る。


「ちょっとドライアド! 痛いじゃないの!」


 ハーピーの向いた先には、真っ赤なバラ色のスカートを穿いた美女がいた。

 否、スカートではない、ソレはバラそのものだった。

 彼女こそは花の妖精ドライアド。彼女もまたライズの従魔である。


「どうせ3歩歩いたら忘れる程度のオツムなのですから、構わないのではなくて?」


「ソレは迷信だってば! 鳥の魔物だけどトリ頭じゃないモン!」


 一般的に鳥の魔物は頭が良くないと言われるが、実のところそこまで露骨に頭が悪い訳ではない。特別良い訳でもないが。


「あらそうなの? でもそこに居ると危ないと思うわ」


「え?」


 ゴッ!!


 その時、勢い良く掘っ立て小屋のドアが開き、手前に居たハーピーを勢い良く吹き飛ばした。


「ほら、いわんこっちゃない」


 ちなみに、吹き飛ばしたのはドライアドだ。

 彼女はハーピーを挑発し、彼女の意識を自分の寄せている間にスカート状の花びらの後ろから迂回するように自らの蔦でドアを開けたのだ。


「ふふ、今日の勝負は私の勝ちですわね。ご主人様~、朝で……」


「ああ、お早う」


 ライズを起こすべく掘っ立て小屋に入ったドライアドは凍りついた。

 それはライズが起きていたからではない。

 彼女が硬直した理由はライズの横にラミアが居たからだ。


「そ、そんな! 朝の寒さに弱い貴方が何故先に!?」


「ふふふぁぁぁぁぁ……、油断しみゃしたね。こんな事もあろうかと、昨晩からライズしゃまのお部屋の前で待機していたのでしゅよ」


 驚きの声をあげるドライアドに、ラミアはあくびをしながら勝ち誇る。

 若干舌っ足らずなのは眠気の所為だろう。


「まさか自分の弱点を理解して対策を練っていたなんて!」


「ふふーん」


 寝ぼけているのか、普段のお淑やかさが抜けているラミア。


「こうなったら今夜の内にご主人様のお部屋への入り口を蔦で固「よくもやったなぁぁぁぁぁ!!」


 ラミアへの対策を練ろうとしていたドライアドに、ハーピーのとび蹴りが炸裂する。

 ハーピーは鳥型の魔物である為、足は鳥のソレと同じ形状をしている。

 それも狩りをする猛禽の足だ。

 この足で攻撃されれば大抵の生き物はひき肉になってしまう事だろう。


「危ないですわねぇ! 蔦でガードしなかったら私の美貌が大変な事になっていましたわよ! いい加減加減を覚えなさい!!」


 ハーピーの攻撃を間一髪でガードしたドライアドが抗議の声をあげる。


「先にやって来たのはそっちじゃない!」


「そっちだっていつも妨害してるじゃありませんの!」


 そのまま口論に映る二人。

 この様にライズを慕う彼女達は、毎朝彼を起こす役を奪いあっていたのだった。

 尚、雄の魔物は巻き込まれては適わんと我関せずの構えである。


 ◆


「今日の仕事はラミアが大工の手伝い、ユニコーンはいつもの……」


「いい加減少女の治療がしたいのだが! 少女の子育てでも構わないぞ!!」


 ライズはユニコーンの抗議を無視してスケジュールを確認していく。


「ドラゴン達は相変わらず仕事なしか。まぁドラゴンを使う仕事も思いつかんしなぁ……と、トレントとドライアドが農家の手伝いか」


「ええ、畑のお野菜の具合が良くないみたいですので、私達が様子を見に行く事になりました」


「まぁ二人なら問題ないだろう。けど初めての客だからな、今日は俺もついて行くよ」


 ライズは初めて仕事を依頼してくる客と、初めて魔物が仕事をする時は必ず立会いをしていた。会話の可能な魔物であっても、初めての仕事では何が起こるか分からないからだ。


「じゃあ行くか」


「ええ、トレントー行きますわよー!」


 ドライアドが掘っ立て小屋の外に声をかけると、外の木がワサワサと動き出した。


「おぉぉぉぉ」


 間延びした声と共に、木の根が持ち上がり枝が人間の腕のようにしなって動く。

 そう、この木は只の木ではなく、植物の魔物トレントだった。


「そんじゃ言ってくる。なんかあったら畑の方に来てくれ」


「承知しました」


 ラミアに見送られ、ライズ達は牧場を後にしたのだった。

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