せんせい
柿種 瑞季
谷岡道
第1話 先生という道
ある日の道徳の時間で、『将来の夢』を語るという課題がでた。今週は考える時間で、来週には発表してもらう、という授業予定に谷岡道は焦った。谷岡道には、『将来の夢』はなかったのだ。周りがどんどんペンを進める音、楽しそうに語り合う声が聞こえては、谷岡道は心が重くなる。考える時間が残り十分となったところで、担任の
そして、新井先生はいつもの優しい声で語りだした。
「まず、僕がなぜ『先生』になったのか、理由を話そうか」
新井先生の言葉に、全員が耳を傾けた。
谷岡道も、とても気になった。
「僕は『先生』が嫌いだったんだ」
新井先生の言葉に、谷岡道は目を丸くする。谷岡道だけでなく、全員が驚いた。少しざわつく中、新井先生は言葉を続けた。
「少しのことで、偉そうに指示したり、叱る『先生』が僕は嫌いだったんだ。だけどね、そんな中、一人だけ大好きな『先生』がいた。その人は、規則に厳しい人だったが、とても自由な方だった。僕は、心から尊敬した」
目を細めて、懐かしそうに話をする新井先生。
「『先生』とは、漢字で『先に生まれる』と書きます。しかし、自分より『先に生まれる』者、皆が『先生』というわけではないでしょう」
新井先生を纏う空気が、とても優しく、日だまりのようで。
「僕にとっての『先生』は、あの方一人だ」
にっこりと、新井先生は優しく微笑む。
「僕は、『先生』とは何かを探すために『先生』になりました」
──その言葉が、谷岡道の将来を決めた。
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