第26話 ストノスト兄弟の実家事情と喪服の聖女
夏休み、帰る実家がない――正確には実家の建物は残っているのだが、魔法の力で家の中に入れないどころか、玄関のドアを触りに行こうとしても塀と塀の間に見えない壁があってそれに阻まれるような感じになる――
プリストラ及びその同室者ドンは聖女邸の自室で夏休みの課題に取り組み、それらが概ね片付いたので自由にのんびり過ごしていた。
プリストラは自分のベッドこと、
二段ベッドの上側のベッドで幼いときから何度も読んでいる『もふくのせいじょ エクレール』という絵本を読んでいた。
エクレールには魔王因子を持つ双子の妹がいて、聖女交代式の前日、エクレールの聖人因子の能力――長く触れた生物を死なせる能力――で妹を死なせてしまい、
それ以来、いつも喪服を着て聖女の任を全うし、真実もとい因子の能力を受け入れてくれた人形店の息子と結婚し幸せに暮らす、というのが絵本のあらすじである。
「……よく飽きないな」
二段ベッドのはしごから、ドンが顔をのぞかせ、隣に行ってもいいか尋ねる。
プリストラは変なこと――ドンは前にプリストラを無表情で押し倒した前科がある――しないならという条件付きで許可した。
「……確か聖女エクレール様は今代から、えーっと……」
ドンが小声でヴィーシニャ、マナ、プリストラの母親……と指折り数えていき、今から七代ほど前だな、と答えを出す。
「十五歳で聖女様になって三十歳で聖女の任を交代させて――エクレール様生きてたら
「……その年なら子も孫も、もしかしたらひ孫もいるんじゃないか?」
そうだねぇ、とプリストラがうなずきながら、こう続ける。
「肖像とかを見る限り、かなりの美人みたいだし、子孫みんな、美男美女なんだろうな~」
「……美男美女は褒めすぎだよ……プリストラってば……」
「え、なんで君、そんなに頬を染めながらニヤニヤしてるの? しかも声もワントーン高いし……」
あっ、とドンは普段通りの声でそう言い、咳払いをして、なんでもない、と誤魔化した。
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