第21話 班戦(はんいくさ)!

 個人トーナメントが終わった後、ウリッツァ班及び聖女親衛隊日常警護班の面々は、夏期休暇中に聖女と過ごす、もとい聖女を護る権利を懸けた班対抗戦に出ていた。


「いやあ、決勝まで戦わなくていいなんて最高だな!」

「そりゃあ、男子個人戦で僕達が一、二、三位を独占しているうえに、うちで唯一の女子班員ことトロイノイが女子個人戦で一位を取ったもんね」

 ウリッツァ班の面々は今、班員などからシードルームと呼ばれている、班トーナメントのシード枠専用ルームにいた。


「とはいえ、ただのんびりできるだけの立場ではありませんよ。こうして他の班の戦いを見て作戦を考えないと」

 シードルームには試合会場を見渡せる程の大きい窓が付いていてそこからウリッツァ班らは他の班の試合を眺めながら作戦会議をした。



 そしてウリッツァ班以外の対戦が終わり、ウリッツァ班とドン班の戦いが始まろうとしていた。

「……私達の対戦相手を決める試合で、リカ班が来るかと身構えていたのですが、ドン班になるとは……」

「アインも、ドン班のもう一人の女子ウーリュも、個人戦初戦で勝ってシードに負けたとは言え、油断できないって訳ね」

「ああ、オレがプリストラやマギヤの次に苦戦した、ドン班長の指揮下で化けるタイプだって分かったからな」

「僕に負けたクワトもね」


 赤いリボンだとかフリルだとかで可愛らしいのと、身の丈ほどの金棒をガンガン振り回しても破れない一定の耐久性を併せ持った戦闘服のアイン・ミーチャン。

 青を主体としたチャイナ服調の戦闘服で、格闘のステップを踏むクールビューティー、ウーリュ・チーパ。

 くすんだ黄色いローブを身にまとい、長い杖を持つドン班班長、ドン・カセ。

 緑の戦闘服で連射可能なクロスボウを二刀流するライトチャラ男、クワト・ロー。

 

 ついにヴィーシニャの護衛権をかけた、二班の戦いの火蓋が切って落とされる。

 この戦いの主な勝利条件は、三十分の制限時間内に、対戦班全員の装備損傷ポイントの合計を一定値――対戦班全員の装備を大事なところしか隠せないレベルにすることではない――にさせるか、

 対戦班長の身ぐるみをはがす……失礼、班長の装備損傷ポイントを一定値にさせるか、

 班長一人か対戦班全員を魔力マナ切れなどで気絶させるかである。



 ウリッツァ班の作戦は、この戦いで班長ウリッツァが崩されたら敗北ジ・エンドなので、プリストラの結界で守りつつ対戦班長たるドンを狙いうつ……というものなのだが……。

 そのドンが試合開始早々、無詠唱の魔法で足元の地面を隆起させ、ドン本人はもちろん、本人を狙いうちする難易度も上昇した。

 魔法は対象の位置を認識さえしていれば届くとはいえ、ドンや地面にいる他のドン班員がそうはさせない。

 班長ウリッツァにアインとウーリュが襲いかかるが、プリストラの結界が二人の攻撃を弾く。

 比較的マークが薄いマギヤとトロイノイがドンを遠距離からドンを襲撃しようとすると、クワトやドンが矢や魔法で妨害や反撃をしてくる。

 

 ジリ貧な中、ウリッツァがプリストラに声をかける。

「なあプリストラ、結界の外に魔法ってかけられる?」

 かけられる、と答えた直後にプリストラはそうか! と自分達を守る結界の外に炎魔法を付与する。

 負けじとウーリュが氷魔法で防御するが、プリストラの炎の前ではその氷が溶けるどころか溶けた氷すら蒸発する。

 魔力切れで倒れた上に装備がボロボロのクワトをよそに、マギヤとトロイノイがドンを追い詰める。


 ついにドン班全員の装備損傷ポイントが一定値に達したブザーが鳴る。

 今年の夏の聖女護衛権はウリッツァ班の物になった。

 そして、この日はウリッツァの誕生日でもあった。

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