ガールズインユニバース

たるばれるーが

第1話 銀河遭遇 galaxy cross


時は大宇宙航海時代。人間が地球を飛び出し宇宙へと繰り出してから1000年。人間達はこの広い大宇宙の中で文明を開拓し、宇宙人と遭遇し、さらなる発展と拡大を遂げていた。

人々は、冒険を求め宇宙へと旅立っていった。宇宙で貿易をするもの、資源を探すもの、略奪をするもの、それを取り締まるもの、様々な人間が様々な理由で宇宙へと飛び立った。

そんな時代の中。大宇宙の片隅で一隻のスペースシップが冒険を繰り広げていた。

船の名はトルトュー号、甲羅をかぶった亀のような形のイエロー船体、聳え立つ蛍粒子主砲、そして左舷側に取り付けられた不似合いかつ、巨大な大剣。

歪な形をしたその船はスラスターから黄色の尾を引きながら、この第七銀河の中を豪速で突っ走っていた。

トルトュー商会、それが彼らの組織名だ。賞金首の捕獲、宇宙空間上でのレアメタルの採取、異星間での荷物の輸送。金になることならなんだってやる。しかし、別にマフィアなどではない。稀に問題を起こす事もあるが、だいたいが法律的には問題のない行為で終わる。単純に様々の事をしてお金を稼ぐ。

なんでも屋の様なものだった。


「おいおい。次の星はまだなのかよ。退屈すぎてアタシの足が腐っちまうぜ」

カレンのイライラした声が船内に響き渡る。

ここは宇宙船トルトュー号内部、クルー達の共有スペースだ。船内で仕事の無いカレンは暇を持て余し、同じく仕事が無い、ユウカに不満をぶつけた。

「アンタもともと脳味噌腐ってるんだから、関係無いでしょ」

ユウカがソファの上でタブレット型の端末を操作しながら、素っ気なく返す。ユウカは室内だというのに、黒と赤色のゴシックロリータ系統服を身にまとっている。

カレンはユウカのそんな態度に更にストレスがたまり、自分の頭をかき回した。美しいブロンドの髪がかき回されて、くちゃくちゃになる。

「おいおいテメェ喧嘩売ってんのか?」

カレンがユウカに突っかかる。

「2人とも喧嘩するくらいなら、レーダーで、お金になりそうな鉱物でも探しなさい」

隣の部屋のコックピットから大声で怒鳴り声が聞こえてきた。声の主はセナは、このトルトュー号の艦長だ。美しく伸びたストレートの黒髪と高い身長が特徴的である。時代が時代なら、大和美人とも持て囃されていただろうが、女性しかいないトルトュー号の船内では、セナの美貌を気にとめる者はいない。

セナは共有スペース内の2人をチラチラと気にしながら、運転席に座るモーと一緒にコックピットの中でこのトルトュー号の操縦をしていた。

「鉱物の探索だって?おいおいアタシ達はいつから採掘業者になったんだよ。アタシ達は銀河を股にかける賞金稼ぎじゃねーか。それこそ賞金首探すなり、他にいろいろあるだろうがよ。だいたい最後に丘に降りたのなんて、2週間前だぜ。いい加減陸地にあがらねぇと、それこそ歩き方忘れちまいそうだ」

カレンの文句は止まらない。

「そんなに賞金首借りたいんなら、外出て探してきたら〜」

ユウカがまた適当に返事をする。カレンの話など聞いていないらしく、半開きの目でタブレット端末を眺めている。

「ああ!なんだよユウカ。テメェは外に出たくねぇのかよ。まあそりゃそうか。お前ナードだもんな、外なんか出たくねぇわな」

カレンがストレス発散にとそっけないユウカをこれ見よがしに罵倒する。

「はぁ?なによ。アンタの頭の中脳味噌じゃなくて、ピーナッツバターでも詰まってんじゃ無いの?」

ユウカはたった一言で我慢の限界に達し、鬼のような形相で、カレンを罵る。

「やめなさいよー」

コックピットの方から、セナの声が聞こえたが、2人はそんなこと御構い無しに喧嘩を続ける。

「この脳内男だらけの腐れオタク野郎が、テメェこそ頭の中腐ってんじゃねぇのか」

カレンがこれ以上無いほどの口調でユウカを馬鹿にする。

「はぁ?私の頭の中が腐ってるんだったら、アンタの頭の中なんて空っぽよ!」

ユウカも負けじと応戦する。

「この馬鹿衣装、腐れ野郎が」

「アンタの体蜂の巣にして、ボトルケースにしてやるわよ!」

「望むところだぜ。だったらアタシが切り刻んで刺身にしてやんよ」

2人の馬鹿馬鹿しい罵り合いはますますヒートアップしていく、

「こんなんじゃラチがあかないわ。歯食いしばりなさいよ」

ユウカが腕まくりして、拳を構える。

「テメェのテレフォンパンチなんて当たるかよ」

カレンもそれに応じ、臨戦態勢を整える。

「行くわよ!」

「どっからでも来いや」

その時、船内に怒声が響き渡った。

「止めなさい!!!」

共有スペースの部屋の入り口にセナが笑顔で立っていた。しかし口は笑っていても、目は全く笑っていない。

「喧嘩するなら外行ってきなさい」

セナが仁王立ちして言った。声はいつもと変わらないが、迫力が桁違いだ。まるで森の中で熊と遭遇してしまったかのようなプレッシャーだ。

「だってカレンが最初に......」

ユウカが言い訳する。

「喧嘩両成敗、それに先に手を出そうとしたのはユウカでしょ?」

セナがユウカの方を見て言った。こうして目を向けられると、蛇に睨まれたカエルのように、萎縮して、なにも言えなくなってしまう。地獄のような沈黙が続く。

「でも、確かに、2週間も船から出てないのは事実なのよね」

セナが話題を変えた。2人はセナが怒りを鎮めたのを見て、ほっと、胸を撫でおろした。

「そうだ!あそこに行きましょう」

セナが何か思いついたようで、上機嫌になる。

「あそこって、何処だよ」

カレンが尋ねる。

「いいところよ」

セナはカレンにウィンクしてコックピットの方へ歩いて行った。

「モー航路変更よ。次の目的地が変わったわ」

トルトュー号は船首の方向を変え、スラスターから火を噴き加速した。




トルトュー号は人口宇宙衛星ウィオンの内部へと入った。ウィオンは円柱型の人口宇宙衛星である。内部が空洞になっているドーナツ型の形をしており、内部の空洞は宇宙船が中を通ることができるようになっている。名称としてはドーナツ型と呼ばれてはいるが、どちらかというとちくわの方がその形を言い表すのに相応しい。全長は13㎞で、人口宇宙衛星としては中型に分類される。

トルトュー号は内部空洞の中央を突っ切る浮遊道路ななかをゆっくりと飛行した。浮遊道路といっても通常の陸地の道路と大きくは変わらない。蛍粒子によって引かれたライン上の車線のなかを車のように縦に並んで走る。

基本は左側通行でこれは人類の母星である、地球という星の交通規則に合わせたらしい。

人類が宇宙に進出し、そこで生活を始めたといっても、それまでの文明の影響を色濃く受けており、生活のスタイルは変わっても文化は大きくは変化していない。

トルトュー号は地球の規則通り、左側の車線を走り、2キロほど進んだ所で、左側に曲がるという合図に、左側のライトを点灯した。そして、衛星内部に入り、立体宇宙船用係留場に船を下ろした。立体宇宙船用係留場は、宇宙船を停めるためのコンテナが多く並んでおり、細胞のようになっている。

地面に着いたトルトュー号のコックピット後ろ、カメで例えると、ちょうど首のあたりの扉が開き、そこからから紐の梯子が下された。そして開いた扉から2人の少女が梯子を伝って地面へ降りようとしている。

「晩御飯までには帰ってくるのよ」

セナがユウカとマルカに向けて、念押しするように言った。

「了解っスよ」

マルカが軽い態度で返す。

マルカはこのトルトュー号のメカニックである。少女ではあるが、ボサボサの髪と青いパーカー使い古したジーンズを着ており、常時ゴシックロリータのユウカと対照的に、服装などには全く気を使わない性格である。

マルカは急かすユウカを気にせず自分のペースでゆっくりと梯子を下りていく。

「ちょっと!マルカ急ぎなさいよ」

マルカが地面に降りると、ユウカはマルカの袖を掴み引っ張って行った。

セナは2人が出発したのを見送ると、まだ船内に残っている2人に声をかけた。

「行くなら行きなさいよ。鍵閉めるわよー」

「すぐ行く! 」

カレンが上着を着ながドアに向かって走ってきた。カレンは部屋着から外行きの服に着替えており、下は短いホットパンツ上はシャツの上にコートを羽織っている。

「待ったか?」

カレンがセナに聞いた。

「大丈夫よ。でももうユウカとマルカは行ったわよ」

「オッケー。オッケー。モーはまだ来てねぇのか?」

「モーは私と一緒に食料品の買い出しよ」

「いつもいつもわるいな。じゃあ行ってくるわ」

カレンは謝りはしてもセナの代わりに買い出しに行く気は無いらしい。梯子も使わずに飛び降りると、走って何処かへ行ってしまった。

「私たちも行くわよー」

セナがモーに声をかける。

「ん〜」

モーが眠そうにコックピットから出てくる。

「ほら行くわよ」

セナがモーを扉まで連れて行く。モーは身長がとても小さく、セナと並ぶと親子くらいに見える。

「プリン買っていい?」

「プリンでもなんでも買っていいから。ほら行くわよ」

トルトュー号を施錠した後セナがモーを抱えて梯子を降りる。モーを連れて行くのは正直面倒だが、こうでもしないと全く運動しないので、安全な星や人口宇宙衛星に着くたびに、仕方なくモーを連れて行っている。

船員全員がいなくなったトルトュー号はコンテナの中で静かに佇んでいた。



「いい物買えたわね〜」

ユウカが満足気に言った。ユウカとマルカはウィオンの端のエリア。アーキバ街に来ていた。アーキバ街はウィオンの中でも電気街と呼ばれているエリアで、コンピューターの部品や様々なグッズなどなどマニアックな物の取り扱いでなら、この第七銀河の中でも、肩を並べる場所がないほどである。

そんな街に、マルカはコンピューターのパーツをユウカは同人誌を、買いに来ていた。

「そんなに買ってお金大丈夫なんスか?」

マルカが心配そうに聞いた。トルトュー号の船員の給料は全員で山分けだ。ユウカが買い込んだ量は、先月の給料全てを使い切るほどだった。明らかに多すぎる。

「別にいいでしょう。お金の話は」

ユウカがぶっきらぼうに言った。どうやらあまり触れてほしくない話題だったらしい。マルカはお金のことは黙っておくことにした。

「それでマルカは何買ったのよ」

ユウカが話題を変えてきた。

「これっスか。これはですねぇ。素粒子銀河ケーブルと言ってですねえ。これがあるのと無いのじゃ宇宙でのコンピューターの通信速度が段違いなんスよ。さらにこれを今日買った、広域型素粒子ネットワーク管理システムと並列につなぐことによってですね。第七銀河の外にまで検索のドライブを、広げることができるんスよ。これによってですね。多銀河並列更新を可能にしてですね。さらにですね」

「もういいわ......」

ユウカがうんざりして言った。オタクに相手の趣味のことを聞くと大概早口で喋りだして聞いた方は置いてけぼりになる。マルカの場合は特にそうだった。これは聞いた自分が悪かったな。ユウカはそう考えた。それにユウカも自分の趣味のことを聞かれたら、こういう風に話しているのだろうと思い、これからは自分の趣味の話を振られても、冷静になろうと思った。

「それにしても、いろんな人がいるっスねぇー」

マルカがあたりを見渡して言った。アーキバには、マルカのように適当な格好をしている人間もいれば、ユウカのようにやたら痛々しいファッションできている人もいた。更には他銀河から来たのであろうか、全身毛むくじゃらのエイリアンや、6足歩行の怪物のような生物までいる。

「こういうところだと、本物のエイリアンなのか、コスプレなのか分かんないようなやつもいるから、困るのよねぇ」

人型のエイリアン等は特にそうだった。ユウカは昔コスプレと思いエイリアンに話しかけ、拉致されかけたという危ない経験を持っているのでエイリアンのコスプレだけは、苦手だった。

「あの人ユウカさんの格好に似てるっスね」

マルカが遠くで走っている人を指差して言った。

「あれはメイド服よ。私のとは違うわ」

一般人にとっては大差無いような差だが、ユウカにとっては指摘せざるを得ない差だった。

「そうなんスか」

「そうよめちゃくちゃ違うわよ」

「そうスかねぇ」

「そりゃそうでしょ。蕎麦とうどんを一緒って言ってるようなもんよ」

マルカには正直差が分からなかったがどうでも良かったので追求はよした。

「あの人なんか近づいてきてるっスね」

メイド服の女性が長いスカートをたくし上げて、こっちに走ってくる。

「そうね」

人混みの中を衝突を避けながら、その女性は近づいてくる。2人との距離は10メートルを切っていた。女性が倒れくるようにユウカに抱きついた。ユウカはバランスを崩したが、転倒するのだけはなんとか耐えた。

「何すんのよ!」

ユウカが怒りの抗議をするが、その女性はそんなことを気に留めずユウカの服の胸のあたりを掴み顔を近づけて均整のとれた唇から、言葉を発した。

「助けてください」



その頃カレンはウィオンの中心部で一人、ショッピングをしていた。カレンにはユウカたちのようにマニアックな趣味はなく、普通の女の子同様、服などを見て回っていた。

売店で買った。泡立った何が原料かもよくわからないドリンクを飲みながら、有名ブランドの店を回っている。カレンはベンチに座ってひと休みしながら、周りの人間を観察した。カレンにとってそれは癖のようなものだった。ファッション街だからといって、女性の買い物客ばかりいるわけではない。

客引きの店員、中年のカップル、観光に来た家族連れ、彼女へのプレゼントなのか、店員に色々説明されながら、服を選ぶ大学生くらいの男。そんな中に嫌に目立っている男達がいた。カジュアルな街に似合わない黒服の男達は、なにやらヒソヒソと周りを伺いながら話し合っている。こういう事は大抵儲け話に繋がっている。カレンは男達の話に聞き耳をたてた。

機密、至急、アンドロイド、脱走、捕獲、話の全体が聞き取れたわけではなかったが、断片的なキーワードさえ掴むことができた。ヒントさえあれば、話の内容はアバウトに理解できる。

一人の黒服が周りの黒服達に写真を渡した。男達はそれを尻ポケットに入れた。情報化が進み、組織が情報のやり取りに写真を使うことは減ってはいたが、それに伴い、腕利きのハッカーなども数多く生まれ、セキリュティ意識の高い企業はハッキングを恐れて写真などの現物で情報を受け渡すようにする所さえも現れた。カレンに言わせれば数少ないハッカーのためにいちいちこんな事をするのは、本末転倒もいいところだ。

カレンは男達が解散するのを確認すると、一人の男の後をつけ始めた。

カレンは後を追いながら、頭の中で、情報を整理した。キーワードから推測するに、おそらくこいつらの会社のアンドロイドが暴走でもして脱走したのだろう。しかし、警察に報告すれば、自分たちの会社の失態を世間に知られることになる。それを避けるためにこの黒服達はこんなにもこそこそ動いているのだ。

後をつけていた黒服が、人通りの少ない道に出たのを見計らって、カレンは男に近づいた。

「すいませーん。この店の場所分かりませんか?」

カレンはできるだけ可愛らしく男に話しかけた。男は怪訝な顔をした。目の前の自分のデバイスに聞けばいいだろとでも言いたげな表情だった。明らかに怪しんでいる。

「分かりませんか?」

カレンがさらに顔を近づける。男は顔を赤らめ鼻息が荒くなる。カレンは男の態度に内心嫌悪したが、ここで引き下がるわけにはいかない、体をさらに近づけ男の尻ポケットに手を伸ばす。

「その店はここだよ」

男がカレンのデバイス内の地図に指をさして言った。カレンは男がデバイスに注意を向けた一瞬のうちに男の人ポケットの中の写真を抜きとった。

「今仕事中だから。連絡先はここに」

カレンが自分のことを誘っているとでも思ったのだろうか、男が勝手に連絡先を送りつけてきた。

「分かりました!お仕事終わったらここに連絡してくださーい」

カレンが男に電話番号を送り男の元から去った。男は自分のデバイスに電話番号が受信されるのを見ると、満足気に下衆な笑みを浮かべた。カレンは男から離れながら、胸の中で馬鹿が、と呟いた。カレンが送った電話番号は誰にもつながっていない番号だった。



一方ユウカとマルカは、先ほどの少女を連れてカフェの中にいた。抱きついてきた女性は長い銀髪とロングスカートのメイド服の美少女だった。この少女の話によると、自分は、かの大企業SYONに追われており、連中の追っ手から逃げ、他の星からこの人口宇宙衛星に逃げ込んだそうだ。

「馬鹿げてるわ。ありえない。だいたいそんな大企業に狙われて、こんなところまで逃げてこれるなんて不可能よ」

ユウカが冷たく言った。

「自分はこの話本当だと思うっスよ」

マルカがユウカの意見を否定する。

「はぁ!?アンタはこんな馬鹿げた話信じるっていうの?」

ユウカが声を荒げて言った。

「はい」

マルカは即答する。

「アンタ頭イかれてんじゃないの?こんな一人の人間をそんな宇宙的な大企業がなんで追っかけんのよ」

ユウカはマルカと目の前の少女を睨みつけて言った。

「ユウカさんこの子のこと人間だと思ってるんですか?」

マルカが小馬鹿にした表情でユウカの方を見た。ユウカは少女の方をじっと見た。

「この子アンドロイドっスよ。目のところよく見てください。精巧に加工されてるっスけど、よく見るとシリコン製です。それに皮膚も有機性のカーボン素材になってるっス」

ユウカはハッとして少女の方を見たが、やはり分からなかった。

「それで。この子がアンドロイドだとして、アンタはこの子の言ってることが、本当だと思うの?」

ユウカは冷静になって言った。

「さぁ?それは調べてみないとわかんないっスね」

マルカは嬉しそうに言った。

「アンタこの子を持ち帰るつもりね」

ユウカは露骨に嫌そうな態度をとる。

「まぁそういうことになるっスね」

「アンタ正気なの?この子の言ってることが本当なら、私達暴走アンドロイドを匿うことになるのよ」

「それは大丈夫っスよ。この子の感情指数は基準内です。つまりこの子は暴走アンドロイドじゃなくて、正常な判断でSYONから逃げてることになるっス」

「つまりどういうことよ」

「つまりSYONはなんらかの理由があって他者の開発した、このアンドロイドを捕獲しようとしているってことっスね。それに今調べたんスけど、その企業このこと警察にも言ってないみたいなんスよ。つまり何らかな犯罪に巻き込まれてる可能性が高いっス」

マルカがいつも通りの口調でとんでもないことを言った。

「はー......。めんどくさいことに巻き込まれたわね」

ユウカはため息をしながら言った。

「そうっスね」

マルカは何が面白いのかなぜだか笑った。

「いいわ。アンタのことひとまずは助けてあげる。でもついてこられなかったら、容赦なく見捨てるからね」

ユウカがアンドロイドの少女に言った。厳しい口調は気恥ずかしさの表れだろう。

「......ありがとうございます」

「アンタその喋り方もっとなんか緩くならないの?アンタと喋ってると肩が凝りそうよ」

「喋り方でしたら、コンピューター設備のあるところでダウンロードしていただければ何なりとでも」

「そういうこと言ってんじゃないわよ」

3人は代金を払って店を出た。



「見つけたぜ」

カレンはターゲットが喫茶店から出てくるのを発見した。念のためにもう一度さっき奪った写真を確認する。髪の色、特徴的な服、背丈、どれを取っても写真の少女と喫茶店から出てきた少女はそっくりだった。

カレンは立ち上がり、襲撃方法を考える。襲撃対象は自分から見て一階層下ちょうど吹き抜けの反対側にいる。影に隠れてよく見えないが、一般人二人が随伴している。おそらく騙されているのだろう。暴走アンドロイドがよくやるカモフラージュだ。自分を観光客か何かに見せかけるやり方、しかし、そんなやり方は顔が割れてしまっていては意味がない。カレンはコートの裏に隠した蛍粒子ブレードに手を掛けた。残りのバッテリーを確認し、安全装置を外す。スニーカーの靴ひもを結び直し、突撃体制を整える。対象までの距離は目算30メートル、カレンは吹き抜けから飛び降り、一気に走り出した。


「9時の方向急速接近反応」

ユウカ達と一緒に歩いていた。アンドロイドの少女のレーダーが反応した。ユウカが9時の方向を向いた。

カレンが懐のブレードを鞘型の、充電器から抜くと、キーンと音を立て、黄色に光る刃が柄から生成される。

「反射が遅ぇぜ!」

カレンが大きく踏み込み、アンドロイドに切りかかる。アンドロイドの少女は斬撃に対して、大ぶりの蹴りをぶつける。カレンは後ろに飛んで衝撃を殺す。アンドロイドは後ろ向きに転び、一回転して飛び起きた。

カレンは一瞬の混乱の後、状況を理解した。アンドロイドが靴の裏に蛍粒子のシールドフィールドを発生させたのだ。思いもしなかった反撃に少し戸惑うが、カレンは寧ろ予想以上の強敵に心が高鳴った。

「おもしれぇ。最高だぜオマエ」

つぎの攻撃を繰り出すため、もう一度構え直す。思考が溶けだし、反射に身を委ねる。強敵との闘争、カレンは最高の気分だった。

「うおおおお」

雄叫びを上げて、再び突撃しようとする。

「ちょっと!待ったぁぁぁ!!」

二人の間にユウカが割り込んでくる。カレンは慌てて立ち止まる。

「何すんだよユウカ!危ねぇじゃねぇか!」

「危ないのはこっちの台詞よ!何急に切りかかってきてんのよ!」

カレンは仲間の突然の行動に戸惑ったが、すぐに原因を理解した。おそらくユウカはこいつがアンドロイドだということを理解していないのだ。

「離れろユウカ!そいつは暴走アンドロイドだ!」

「違うわよ!何言ってんのよ!」

「ああ?お前もしかしてそのアンドロイドに感情移入してんのか?だったらそれは馬鹿だぜ。オマエはそのアンドロイドに騙されてんだ」

「ちょっと待つっスよ」

マルカが二人のマシンガンの如き会話に割り込んだ。

「マルカ!お前もいたのかよ!だったらこの馬鹿に一言言ってやれよ」

「そうじゃないんっスよ。この子は本当に暴走アンドロイドじゃないんっスよ」

「本当か!?マルカ!」

「ちょっと!何で私の言葉は信じないでマルカのはすぐ信じるのよ!」

ユウカが文句を言う。

「オマエは馬鹿だからな。それでマルカ、こいつが暴走アンドロイドじゃないってのはどういうことだよ?」

「そのままの意味っスよ。この子は暴走アンドロイドとしてじゃなく、正常な判断で連中から逃げてるんスよ」

「なるほど。奴らが何らかの理由でこいつを狙ってるって訳か。だが何でこんな少女型のアンドロイド一機を連中は付け狙ってんだ?」

「それはわからないっス。でもこんな精巧に作られた人型のアンドロイドは初めて見たっス。設計者はおそらく変態っスよ」

「なるほどな。しかしまぁ、こういうことは本人に聞くのが一番早ぇか。おいお前、なんか分かんねぇのか?」

カレンはアンドロイドの少女に聞いた。

「それは......」

アンドロイドの少女は、一度言いかけた言葉を止めた。レーダーが反応し、眼球の中のランプが点灯している。

「接近反応多数。3時の方向」

一同がその方向を一斉に向いた。黒服の男たちが10人ほど横並びで歩いてきている。

「チッ、話は後だな。おいお前、名前は?」

カレンがアンドロイドの少女に問いかけた。

「レイ」

アンドロイドの少女が小さな声で呟いた。

「オッケー。レイ!逃げるぜ」

4人は男達と反対向きに、一斉にに走り出した。「追え!」と後ろから聞こえる。黒服たちも同時に走り出した。

ユウカが手に持ったビニール袋の中から球体の何かを取り出して黒服の方へ投げつけた。

「グレネード!!!」

黒服が一斉に横に飛んで伏せる。

だが爆発はしない。投げた物体はガチャガチャのカプセルだった。

「ばーか」

ユウカが男達に向かって舌を出して馬鹿にする。

「セナ今どこだ!」

カレンが手首にはめた腕時計型の通話機に話しかけた。すぐにセナは応答した。

「もうモーと一緒に船の中よ、あんた今どこよ?」

「緊急事態だ。座標を送るから迎えに来てくれ」

「分かったわ!無事に帰りなさいよ」

セナならすぐに来てくれるだろう。カレンは他の四人が付いてきてこれるかを確認するため振り返った。

ヒュッン!カレンのほおを、黒服が撃った蛍粒子弾が掠めた。

「連中撃ってきたっスよ!」

マルカが慌てて言った。ユウカがスカートの中から出した蛍粒子ハンドガンを構えた。

「ユウカ!対人モードにしとけよ!」

カレンがユウカに言った。

「分かってるわよ!」

ユウカが後ろに向かって発砲する。5発目で一人に当たり、弾が当たった男は悲鳴をあげて倒れこんだ。

対人モードなら当たっても死ぬことはない。せいぜい失神するくらいだ。

「こっちだ!」

カレンが4人を先導する。

「どうするんですか?」

レイがカレンに問う。

「全部あたしに任しときな」

カレンはウィオンの街の中を、銃弾を避けるようにかくかくと進んでいく。

一気に開けた場所に出る。目の前は宇宙船達が通る浮遊道路だ。

「マルカ来い!」

カレンがマルカの体をがっしりと掴み、担ぎ上げた。

「跳ぶぞ!」

手すりを踏み越え浮遊道路に向かって大きくジャンプした。中央を通る浮遊道路は今まで歩いてきた足場と違い重力がない。4人の身体はふわりと軽くなった。

「馬鹿な!」 「イカれてやがる!」

後ろから黒服達の声が聞こえる。黒服達は手すり沿いに並び銃を構える。カレンはマルカを抱えたまま走ってきた宇宙船のアンテナをつかんだ。後ろから跳んできた2人も同じようにアンテナに掴まった。

「あばよ。ウスノロども」

カレンが後ろの黒服達に手を振った。宇宙船は道路の上をグングン進み、男達のいる場所から離れていった。

「それにしてもあいつらは何なんだよ。全く訓練されてるようには見えねぇぜ」

「この子の話だとあいつらはSYONの連中らしいわ。訓練なんてされてなくて当然よ」

ユウカが言った。余裕そうなカレンとは違い少し息があがっている。

「SYONだぁ?大した企業じゃねーか。それが何でこいつを狙う?」

「知らないわよそんなこと」

ユウカは宇宙船の上に座り込んだ。

「これからどうするんスか?」

マルカが聞いた。

「一応セナには連絡しといたから何とかなるだろ」

「なんでアンタはそんなに楽観的なのよ」

ユウカが悪態をつく。

「あれなんスかね?」

マルカが遠くからこっちに向かって飛んでくる飛行物体に気がついた。

「飛行物体接近。飛行物体接近」

レイのレーダーも反応する。

「おいおい。冗談だろ」

近づいて来たのは無人飛行攻撃機だった。

「警告。警告。宇宙船を停め、直ちに投降しなさい。警告。警告。宇宙船を停め、直ちに投降しなさい」

無人攻撃機が周りを囲み乾いた電子音声を読み上げた。

「冗談じゃ無いわ」

ユウカが無人攻撃機に向けて発砲する。蛍粒子弾は無人攻撃機に向かって飛んでいったが、それは寸前のところで展開された蛍粒子シールドに阻まれた。

「チッ、硬いわね!」

無人攻撃機が発砲を始める。蛍粒子弾のマシンガンがカレン達の乗る宇宙船の甲板を無慈悲に貫いていく。

「マルカ!シールドだ!」

「了解っス!」

マルカの展開したシールドがマシンガンの弾を弾く。

「ついて来い!」

カレンが宇宙船の前方に向かって走り出し、隣を走っていたジェット宇宙船の上に飛び乗った。そしてジェット部分の裏に身を隠す。他のメンバーも同様にジェットの裏に身を隠す。攻撃機は射撃を止めた。

ジェットの近くでは誘爆するおそれがある。すべてのAIが、安全のために爆発物の近くでは撃てないようにプログラミングされている。カレンはそのシステムを利用したのだ。

「やばいっスよ」

攻撃機はマシンガンによる攻撃を諦め、アームを伸ばし、スタンガンでの攻撃に切り替えた。

「ちょうどいいぜ」

カレンはブレードを構えた。攻撃機のうち一機が距離を詰めてくる。カレンはその攻撃機に向けて飛び込み、大ぶりの一撃を放つ。攻撃機はその攻撃を右にスライドしてかわす。カレンは飛び込んだ勢いのまま身体を捻らせ二撃目を叩き込む、斬撃を受けた機体は一刀両断され、音を立てて爆ぜた。

爆発と同時に2機目が突進してくる。カレンはそれをひらりとかわし、カウンターを当てた。

カレンの実力を警戒してか3機目がゆっくりと距離を詰めてくる。カレンは鍔のスイッチを押し、ブレードを拡張した。蛍粒子の光が眩い光を放ち刀身が伸びる。刀の長さは5メートル先を飛んでいた相手を斬った。攻撃機は空中を漂いながら爆発した。

「ザッとこんなもんだぜ」

カレンは格好つけてポーズを決め刀を一回転させて納刀した。

「流石っスよ。カレンさん!」

「アタシにかかりゃ楽勝だぜ」

久々の実戦にカレンは上機嫌だ。

「まだ来てるわ!」

ユウカが叫ぶ。後方から黒服達が乗った黒塗りの宇宙船が近づいてくる。

「しつけぇ野郎どもだ!セナまだか!」

カレンがセナに再度連絡する。

「前を向きなさい。カレン!」

カレンは後ろから来る宇宙船から目を離し振り返った。

「おいおいまじかよ」

トルトュー号が前方から車線を無視し逆走しながら突っ込んできている。下腹部のコンテナからセナが身体を乗り出している。

「飛び乗りなさい!」

「行くぞテメェら!」

カレンが周りに呼びかける。

「分かってるわよ!」

「了解っス!」

カレンがコンテナにいるセナに向かって走り出す。2人の距離は10メートルほどある。

カレンは地面を強く蹴って飛び出した。3人もそれに続く。

「掴まりなさい!」

セナが手を伸ばす。カレンはその手をつかんだ。それと同時にユウカがカレンの足を、マルカがユウカの足を、レイがマルカの足をつかんだ。

「踏ん張りなさいよ。あんたら!」

セナが全員を引っ張り上げる。5人はコンテナの中に入ったと同時に団子状に絡まり、壁まで転がる。

「モー全員確保完了よ」

セナが無線でコックピットに伝える。

「りょーかい」

モーがマニュピレーターを使って、コンテナの扉を閉めた。

「前方から宇宙船5機」

モーのアナウンスがコンテナ内に反響する。

「蹴散らしなさい」

セナが指示をしながら立ち上がり、モーに無線で命令する。

「りよーかい。機銃掃射」

トルトュー号の前方コックピット横から蛍粒子弾が絶え間なく撃ち出される。連中はギリギリのところで弾をかわしたが、そのままウィオンの建物に激突した。

「このまま脱出するわよ」

セナがコックピットの足を組んで艦長席に座る。マルカがその右側に、カレンがその左側に座り、ユウカは主砲の照準台に腰を下ろす。

「前方ゲート閉まります」

マルカが叫ぶ。ウィオン側が騒ぎに気づきドーナツ型の端、二つの出入り口を封鎖しようとしている。ゲートに蛍粒子のパワーフィールドが形成されている。

「このトルトュー号を舐められたものね。主砲発射用意!」

セナが叫ぶ。

「本気かセナ!やばいことになるぞ!」

カレンが抗議する。

「今更何言ってるのよ。日和るんじゃないわよ!」

「蛍粒子エネルギー充填完了、後方スラスター最高出力、ビーム圧縮率100パーセント」

マルカが冷静に発射準備の、完了を読みあげる。高エネルギー反応に気づき前を走っていた宇宙船達が退避する。

「前方障害物ゼロ、ハイパーパーティクルキャノン発射準備完了。いつでも撃てます」

ユウカが照準をゲートに合わせ、セナの方に一瞥を送る。

「了解。ハイパーパーティクルキャノン発射!」

トルトュー号の砲台から、高エネルギーのビームが発射される。圧倒的威力に、道路にあったものは全て誘爆する。美しい光をの粉を周りに撒き散らしながら、蛍光色の流星はゲートのパワーフィールドに衝突した。

眩い閃光が撒き散らされ、高出力の蛍粒子同士の衝突により、互いの粒子力が対消滅する。高音の業風が吹き荒れ周りの建造物全てが弾け飛ぶ。

「前方、エネルギーフィールド消滅」

「このまま行くわよ!」

トルトュー号は加速し、ウィオンの中から脱出した。



「やれやれだぜ」

カレンがため息をついた。

「死ぬかと思ったわ」

ユウカが魂の抜けたように言った。

「まだ、油断しちゃ駄目よ」

セナが言う。

「レイさんちょっと今からいいですか?いや何でもないっスよ。すぐ終わりますから。ちょっとだけ脱いで待ってて貰えばそれで終わりますから」

マルガが何やらおっさんのようにレイを自分のメカニックルームに、連れて行こうとしている。

「分かりました」

レイは無機質に返事をして、マルカについて行った。

「オイオイオイ。死ぬわアイツ」

カレンがレイを心配そうに見つめた。

「あいつ、何であんな元気なのよ......」

ユウカがソファでだらけながらマルカを見て言った。

「それでさっきの人たちは何だったの?それにあのアンドロイドの子も何者なの?」

セナがカレンに問いかける。

「追ってきてたのSYONとか言う企業の連中らしいけどよ、何でかとかはアタシはあんま知らねぇんだ。ユウカはなんか知ってるか?」

「さあ。私達もあの子が連中に追われてるのを助けただけだからよく分かんないわ。暴走アンドロイドってわけじゃないから危なくはないと思うけど、連中警察にも、言ってなかったから。相当やばい事情があるのは確かね」

ユウカがソファから立ち上がりながらそう言った。

「不審ね。貴方達が連れてきたから信頼はしてるけど」

「で、レイのことは良いとしてよ、SYONの方はどうする?あとさっきの発砲もやべーだろ」

「それは大丈夫よ。警察にも言ってなかったのなら、向こうにも不利な理由がある筈よ。

おそらく向こうでのことは揉み消してくれるわ」

「だと良いけどよ。それでこっからどうすんだ?多分連中また来るぜ」

「来たなら来たでその時考えるわよ」

セナがカレンにウィンクして言った。やっぱセナが一番イカれてるなとカレンは思った。

船内に警報が鳴り響く。

「状況は?」

せながモーに問いかけた。

「前から敵が来てる」

前方からは、中型の宇宙用攻撃船がこっちに向かって飛んで来ていた。

「装備確認して!」

「視認できるのは、蛍粒子ガトリング8門、中型の砲台が2門」

ユウカが望遠レンズを使って相手の武装を確認する。

「対蛍粒子用煙幕弾発射」

「りょーかい」

トルトュー号の後ろの部分からミサイルが大量に発射される。ミサイルは不規則な放物線を描きながら、宇宙空母で爆発した。あたりにキラキラと光る粉が舞い散る。この粉が蛍粒子に当たると、粒子間の結束が薄れ、ビームなどの威力が減退するのだ。

敵機が8門の、ガドリング砲を乱射してくるが、煙幕によって弾は拡散し、トルトュー号にダメージを与えることができない。

「このまま一気に行くわよ。カレンはムーブトレースシステムの準備、モーは蛍粒子シールドフィールドの展開、ユウカはミサイルハッチのミサイルを、攻撃用に換装して!」

「あいよ!」

「りよーかい」

「了解」

セナの指示通り、モーは蛍粒子シールドフィールドを展開した。トルトュー号の前面に巨大な光の盾が出現する。

そしてカレンはコックピットを抜け出して、船内の最上部。オールビュー展望台へと向かった。

「ユウカ、ミサイルの発射を!」

「了解」

トルトュー号の後方部分先程煙幕弾を発射した場所から、ミサイルが大量に発射される。

その内大部分は宇宙空母上でガドリングに撃ち落とされたが、銃弾の間を縫って進んだミサイルが、数発は着弾した。

「ミサイル着弾率12パーセント」

「上出来よユウカ。このまま突進するわ。カレン準備は良い!」

「当然だぜ!」

カレンの声が無線を通して、コックピット内に響く。

「行くわよ!スラスター100パーセント」

モーが手前のレバーを目一杯引いた、機体は轟音を上げながら突撃して行く。

空中で拡散する銃弾をシールドフィールドが受け止めながら、黄色の機体は真っ直ぐ的に向かって進んでいく。

「ブレード射出!」

セナの言葉と同時に、トルトュー号の側面に付けられた大剣が解き放たれる。カレンはその刀をトルトュー号の甲羅の中腹から伸びる。アームで器用に使い掴みとる。ムーブトレースシステム、それは対象の動きを読み込みコピーしそしてそのデータをリアルのアームに反映する。つまりカレンの体の動いた通りに宇宙船のアームも動くようになっているのだ。

「潜り込めモー!」

モーは巧みに操縦桿を操り、機体を敵機の下に潜り込ませた。カレンは展望台の中で腕を大きく振り上げた。トルトュー号のアームもそれに合わせ大きく振り被る。

「消えな!2流どもが!」

カレンは腕を大きく振り下ろした。それと同時にアームもつかんだブレードを振り下ろした。敵の機体は、慣性である程度進んだのちに、漆黒の宇宙空間上で派手に爆ぜた。

カレンはそんな爆発には目もくれず、展望台を後にした。



「検査終わったっスー」

マルカが螺旋階段を登って共有スペースまで歩いてきた。

「おお」

カレンが手を挙げて反応する。レイは階段から上がってきて一礼してから部屋に入った。

「貴方がレイちゃん?」

セナがレイに優しく話しかける。レイは頷いて肯定する。

セナは椅子を引いてレイをそこに座らせ、自分もその隣に座った。

「貴方行くところないんでしょう。だったらウチに来ない?」

いきなりセナがレイを勧誘する。

「ご命令とあらば」

レイが無機質な声で言った。

「そうじゃないわ。貴方はどうしたいの?」

レイがキョトンとした。

「おいおい。アンドロイドにその質問は酷だぜ。お前ならそんなこと分かってんだろ」

カレンが口を挟む。

「そうよ。アンドロイドにそんなこと決定する能力はないわ」

ユウカもそれに同調する。セナはギロリと2人を睨みつけた。

「駄目よ。この子だって私たちと同じよ。この子のことはこの子に決めさせるのが筋よ」

セナが強い口調で言う。

「ちょっと!」

「やめとけよ。こうなったらセナは誰の言うことも聞かねぇよ」

カレンがユウカを諌める。

「さぁどうするの?」

セナが足を組んでじっとレイの方を見つめる。レイは俺を虚ろな目で見つめる。

「私をここにいさせて下さい」

レイが唐突に頭を下げて言った。

「マジかよ!」 「嘘でしょ」セナ以外の面々は驚きの声を上げる。

「分かったわ。宜しくねレイ」

セナが嬉しそうににっこりと笑った。

「宜しくお願いします」

レイは今までで一番深くお辞儀をした。

「そんな風にかしこまらなくて良いのよ。私たちはこれから仲間なんだから」

「......はい」

「だからそんなにかしこまらなくて良いったら!」

レイは明らかに困惑した様な顔だった。口調が変わるにはだいぶかかりそうだ。

「貴方たちも異論は無いわよね」

「私は良いわよ」

「もちろんっス」

「いいよー」

「セナが決めたことなら何だって従うさ」

それぞれの船員がそれぞれの言葉で承認する。

「じゃあ!貴方を我がトルトュー商会のメイドに任命するわ!」

セナがレイの方をビシッと指差して言った。

「かしこまりました」

レイが椅子から立ちあがり、スカートの両端を持ち上げて礼をした。

「ちょっと待てよ。役職とか今まであったのかよ!?」

カレンがセナの言葉に異論を立てる。

「唯こういうのがやってみたかっただけよ。いちいち指摘しないでよ!」

セナが赤面して恥ずかしがる。

「でもメイドさんかー」

船員たちがレイの方をじっと見つめる。

「じゃああれやってくれない、くるっとターンするやつ」

ユウカがにやけながらレイに頼み込む。

「お前の変な趣味をレイにやらせようとしてんじゃねーよ!」

「別に良いじゃないの!減るもんでも無いんだし!」

「かしこまりました」

レイが準備運動の様に靴のつま先の先でトントンと地面を叩く。

「別に嫌だったらやらなくて良いんだぞ。こんな変態の言うこと聞かなくても」

カレンがレイに諭すように言う。

「ではやらせていただきます」

レイはそんなカレンの提案を無視して、左足を軸にして一回転した。ロングスカートがふわりと広がり、長い銀髪が揺れた。

一同はなぜかそれを見て拍手をしてしまった。

「じゃあ、あれやって欲しいっス。お嬢様♡ってやつ」

次いでマルカが提案する。

「分かりました」

レイは即答した。

「あんま変なこと頼んじゃ駄目よ。」

セナが一応注意をするが、セナもとても楽しそうにしている。

「お嬢様♡」

レイがマルカに向けて上目遣いで言った。

声も今までの無機質なものと違い、とても可愛らしい。

「これやばいっスわ......」

マルガが顔を真っ赤にしながら言った。だいぶ効いたようだ。

「じゃあさじゃあさ、コーヒー淹れてくれねぇか?」

カレンが空気の読めていないことを頼む。

「はー!何考えてんのよ?それメイドさんに頼むことじゃないでしょ!」

「逆にお前らの頼んでることの方がメイドのすることじゃねーだろ!」

「かしこまりました」

レイが3分ほどでコーヒーを全員分淹れて持ってきた。

「サンキュー」

カレンが熱いコーヒーをグビグビと飲んだ。

そのコーヒーは死ぬほど苦かった。























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