世界は僕の思うまま
鮭原とら
第1章 やる気はまだない
僕は、普通のサラリーマン。
大手企業でもなく、ただ就職難だからとあらゆる企業を受けてギリギリで内定をもらった小さな不動産会社だ。
25歳にもなって、実家暮らし、貯金もなし、彼女もなし、好きなものはネットゲームやネットサーフィン。
休日の過ごし方は家を出ないこと。
そんな僕がいつもと変わらず朝8時に出社して、タイムカードを切る。
「菅井達希」
それが僕の名前だ。
会社での成績は良くもなく悪くもなく。
とはいえ、ノルマで決まるような会社ではないのでのらりくらりと仕事をしている。
今流行りのブラック企業ではないだけまだマシかな。
「いつも早いな。」
店長が声をかけてきた。
「おはようございます。」
僕はそれ以上のことは言わず笑顔とも真顔とも違う顔で挨拶をした。
やる気があるから早く出社するわけではない。
やる事があるから早く出社するわけではない。
理由はただ一つ。
“通勤バスで座りたいから”
そんな理由だとはだれ一人知らず、会社の人間は僕のことを
「やる気のある社員」として見てるのだろう。
10時から開店し、前もって来店予約をしていたお客が続々と入ってくる。
内見しにくる客もいれば、話と物件だけ聞きに来るお客もいる。
30分弱で帰る客もいれば、世間話を混ぜつつ1時間2時間対応しなければならないお客もいる。
そんなときでも僕は笑顔とも真顔とも違う顔で話を聞き、
一日を過ごしていた。
「お疲れさまでした。」
定時を少し過ぎてタイムカードを切り、会社を後にする。
僕はネクタイを少し緩め、帰宅ラッシュのピークを過ぎたバスに揺られて家まで急ぐ。
バスを降り、家の近くのコンビニで漫画雑誌を立ち読みし、しばらくして時計を見てそのまま雑誌と紙パックのお茶とお菓子をいくつか買って家へと向かった。
「おかえりなさい。」
「ただいまー。」
僕と家族の会話はほぼこれだけ。
あとは「うん。」や「あー。」と言葉になっていない声でやり取りすることがほとんどだ。
部屋に入ってスーツをハンガーにかけ、靴下とインナーをそこらへんに脱ぎ捨てる。
お風呂や夕食などの“作業”をこなして、部屋へと戻る。
自作したパソコンを立ち上げ、見もしないテレビをBGMがわりにつけながら
ニュースサイトを流し読みする。
そして、某掲示板やまとめサイトを一通り読み終えた後、いつも遊んでいるオンラインゲームを起動する。
自分とは似ても似つかない操作キャラクターが魔物を倒し、レベルを上げ、最強武器を手に入れ、世界を救っていく。
今日も、魔物を倒し、レベルを上げ金を稼ぎ、より強い装備を集める作業にいそしむ。
作業に飽きたら、今度は携帯ゲームを起動してスタミナを消費する作業。
僕の生活は“作業”ばっかだ。
そんな“作業”にも飽きてきた僕は、ネットサーフィン中にとあるサイトを発見した。
【新作オンラインゲーム デバッガー募集】
デバッガーとは、ゲーム内のバグや不具合がないか発売前や公開前にアラ探しをする人のことだ。
ゲーム好きな僕からしたら、ゲームをやってお金がもらえるなんてなんて幸せなんだろうと興味本位でそのサイトを読み進めていった。
読んでいくと、空いた時間に家でゲームを立ちあげ普通にゲームを進めていくだけでいいのだそう。
高い謝礼ではないが、拘束時間もなく自分の好きな時にできるとなれば
それだけで高い価値がある。
僕はすぐに応募してみることにした。
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