運命の人は一人だけのはずです

だる

第1話 彼女から元カノになった




「工藤さん、今日機嫌いいっすね」



退社直前。



数少ない後輩の一人からそう声をかけられた。



おそらく俺の口元がにやけていたか、いつも進まない仕事の進み具合が良かったからか。


他人にもわかるぐらい俺の調子はとても良い。





それもそうだ。



「まあな。今日北海道から彼女が会いに来るんだよ」


「えっ、あの遠距離恋愛中の彼女ですか?」


「うん。会うの半年ぶり」


「そりゃ機嫌いいはずだ。今夜は楽しんでくださいね!」



お疲れさまです。

彼はそう言ながら、にやにやとからかいの笑顔を浮かべて自分のデスクへと戻っていった。





現在時刻午後6時55分。

待ち合わせ時刻は午後7時30分。


これから会社を出て、電車に乗っても、待ち合わせ場所には10分前につく。




はやく瑠奈に会いたい。



そんな気持ちが勝って、早々と会社を退社した。






彼女の平山瑠奈と、俺、工藤亮平は大学生のころから付き合い始めたが、俺の就職に伴い東京と北海道の遠距離恋愛となった。


俺と瑠奈は地元の北海道の大学に進学したが、瑠奈は歯学部に所属しており6年制のため現在5年生でまだ学生である。


一方俺は4年制で大学を卒業後上京し、いま務めている中小企業に就職して3年目になる。


仕事は決してできるわけではないが、職場のみんなは人柄がよく親切にしてもらっている。働きやすい職場だ。




そんなこんなで、瑠奈とは遠距離恋愛も3年目。


年に数回しか会うことができなくなったが、会える日を大切に今までやってこれている。



瑠奈が大学卒業後はひっそりプロポーズも考えているぐらい、俺の運命の人だと思う。

なんて。






そして午後7時21分。



予想通り10分前に待ち合わせ場所に到着。

きょろきょろとあたりを見回すが、彼女らしき姿はない。


まだ着いてないようだ。




俺はケータイを取り出し、トークアプリで瑠奈に連絡を入れる。



『待ち合わせ場所に着いたよ。迷ってない?』




送信するとすぐに既読のマークがつき、返信が来る。



『もうすぐ着くよ』


その返信にまた俺は首をきょろきょろと動かす。




…初デートの中学生か、俺は。


でも半年ぶりに会うとなると、どこか緊張するものだ。




すると。



「亮介」



背後から聞きなれたきれいな声が聞こえて、どきっとする。


振り返るとずっと見たかった顔が見えて、思わずほころぶ。




「瑠奈、久しぶり」


「久しぶり。元気だった?」


「元気だよ。瑠奈こそ元気でやってたの?」


「変わらず元気だよ」



ふふ、と笑う笑顔は相変わらず可愛いのだけど、どこかぎこちなさを覚えた。




「ほんとに?体調悪いんじゃない?」


「ううん。大丈夫…」




そういう表情は、やはり曇り気味だ。


気づけば彼女は、話しながら一度も俺と目を合わせない。





「ねえ、瑠奈。なにかあった?」


瑠奈の両頬を手のひらで包み、俺の方を向かせる。


しかしはっと目を丸くした後、また目を逸らす。



そして彼女が口を堅くつぐんだ後、口を開いて出てきた言葉。









「私たち、もう別れよう」






聞き間違ったんじゃないか。





まだ彼女の頬を包んだまま、大きな目をじっと見つめる。



けど彼女の方はまだ目を合わせないまま、言葉を続け、

「今日はそれを言おうと思ってきたの」

そう言った。




聞き間違えなんかじゃない。


俺は添えていた手をおろし、しばらく無言のままでいた。




なんで?


いままで遠距離だって乗り越えてやってきたじゃん。


いままでいろんなところに二人で行って、二人で笑って、たくさん思いで作ってきたじゃん。



それを全部、なかったことにするのか?







「じゃあ、言いたいことはそれだけだから。ばいばい、亮平」


そういって踵を返し、駅へと向かおうとする瑠奈。





そこでようやく声を出す。



「おい、待てよ瑠奈!納得できない!」





俺の言葉を無視してそのまま駅へ走り出していく。


なぜだかそんな瑠奈を追いかけることができなかった。




「別れよう」



久しぶりに聞けた彼女の声が、言葉が、俺には衝撃的過ぎて。







「なんで、俺はまだこんなに好きなのに」





突然の失恋。



自然と涙が流れてきて、その場に俺は2時間ほど立ち尽くしたままでいた。





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