富士山麓へ出発したのよ!
私は箕輪まどか。高校生の霊能者。
尊敬する西園寺蘭子お姉さん達が倒した史上最凶の呪術者である内海帯刀。
その帯刀に闇の仏具を授け、邪教集団のサヨカ会から始まる一連の騒動の大元となったのは、内海廉寛。
廉寛は戦国時代に生きた日本で五指に入る霊能者の一族の中で、宗主となれなかった男だった。
内海一門は一子相伝で、宗主以外は全て宗主に仕える弟子となる。
それに不満を持つ者達は一門を破門されるか、自ら抜けるかという選択しかなかった。
多くの場合、一門の宗主は宗主にしか伝えられない秘術を身に着けるため、逆恨みで戦いを仕掛けて来た者達は惨敗し、命を落としたそうだ。
だが、廉寛はそうならなかった。彼は一門を壊滅させようとしたが、命を落とす事なく生き長らえ、その怨みを蓄積させていったのだ。
そして、闇の仏具を生み出した廉寛は、死しても尚、それを連綿と現代まで伝える事に成功してしまった。
廉寛の魂はこの世に留まってはいないが、残留思念が憎悪と共に残り、その後に続いた一門を追われた者達の憎悪を取り込み、成長し続けた。
その残留思念の全てを取り込んだのが、内海帯刀だった。
帯刀は蘭子お姉さん、そして、お姉さんの弟子の小松崎瑠希弥さんと私達の中学時代の副担任でもあった椿直美先生の育った長野県下伊那郡山奥村の霊媒師の里の皆さんの力により、浄化された。
だが、廉寛達の残留思念は蘭子お姉さんの唱えた最強の浄化真言である「
背筋が寒くなるような執念だ。
その残留思念に取り込まれて悪事を働いた上田桂子・博行母子も、ある意味被害者なのかも知れない。
上田親子は、サヨカ会のメンバーだった。そして、表向きはサヨカ会の初代宗主であった鴻池大仙を甦らせると言っていた。
だが、真実はそうではなく、廉寛の残留思念を霊峰富士の力によって更に強化するつもりではなかったか、というのが、私の彼の江原耕司君のお父さんである雅功さんの見解だ。
江原邸の道場で作戦会議を開いてから、たちまち一週間が過ぎ、土曜日になった。
北海道から、濱口わたるさんと奥さんの冬子さんが来た。
昔の面影は全くなく、冬子さんは我がエロ兄貴が見たら、絶対に口説くだろうという美人になっている。
「皆さん、ご無沙汰していました」
濱口さんと冬子さんは揃ってお辞儀をした。
「いや、見違えたな。もう羨ましゅうて敵わんわ」
蘭子お姉さんの親友の八木麗華さんが肩を竦めて言った。
「お久しぶりね、冬子さん。お元気そうで良かったわ」
蘭子お姉さんが笑顔で声をかけたのだが、
「あ、ら、蘭子さん、お久しぶりです」
何故か冬子さんは狼狽えて応じた。そのせいなのか、蘭子お姉さんは凹んでいた。
過去に何があったのか、知りたいまどかである。
「先生、お渡ししておきます」
冬子さんは
「これで闇の仏具は全て揃いましたね」
蘭子お姉さんが復活して言うと、雅功さんは独鈷を包み直し、
「そうだといいのですがね」
「え?」
蘭子お姉さんはハッとして冬子さんを見た。すると濱口さんが、
「独鈷は対になっているようなんです。もう一個、どこかにあると思われます」
私は思わず霊感親友の綾小路さやかと顔を見合わせた。
「そのもう一個の独鈷を持っているのが、廉寛の残留思念に操られている者です」
江原ッチのお母さんの菜摘さんが言った。更に衝撃が走った。
「だったら早くそいつをぶちのめしに行きましょうよ」
鼻息荒くそう言ったのは、親友の近藤明菜の彼で、江原ッチの親友である美輪幸治君だ。
「ええ、そうですね。では、マイクロバスに乗ってください」
雅功さんが言った。一瞬、嫌な予感がしたのだが、マイクロバスの運転は、エロ兄貴ではなく、麗華さんのお父さんである矢部隆史さんがするようだ。ホッとしたが、矢部さんの顔はまだ慣れていない。
江原ッチの妹さんの靖子ちゃん、そしてその彼の力丸卓司君が最初に乗り込み、それに続いて、気功少女の柳原まりさん、その彼の坂野義男君が乗る。
その後に美輪君と明菜が乗り、江原ッチと私が乗った。さやかの彼の大久保健君は江原邸で留守番だ。
「必ず帰って来てね」
大久保君にそう言われ、さやかは涙ぐんで乗り込んだ。似合わないと思った。
「あんたね!」
隣の席に座りながら、心の声が聞けるさやかが私を睨んだ。私は笑って誤摩化した。
麗華さんは矢部さんの隣の助手席の乗った。蘭子お姉さんと瑠希弥さんが乗り、最後に雅功さんが乗り込んだ。
菜摘さんは江原邸の守りを神田原明鈴さんと明蘭さん親子と共に固めるそうだ。
『私もいるのを忘れないでね』
我が姪の小町がテレパシーで語りかけて来た。小町も江原邸で守りを固める。
もうすぐ一歳になる私よりずっと霊能力がある子。ちょっと主役の座が危ないと思ってしまう。
それから、椿先生と霊媒師の里の皆さんは、長野県から直接富士山麓に向かうらしい。
これだけのメンバーが集まれば、第六天魔王だって撃退できそうだ。何も不安はない。
「そうとばかりは言えないんですよ、まどかさん」
私の前の座席に座っている雅功さんが振り返って言った。マイクロバスの中の全員が雅功さんを見た。
私は心の声が皆さんに丸聞こえだったのに気づき、赤面した。
「出しますね」
矢部さんはその状況に構わず、バスを発進させた。
「思い出してみてください。霊能力がない大仙にどれほど苦戦したかを」
雅功さんの言葉に私はサヨカ会本部での激闘を回想した。
確かに大仙との戦いは稀に見る激戦だった。
最後にあの黒い着物の少女が現れなければ、どうなっていたかわからない。
「もう一個の独鈷を持っていると思われる人物は、十中八九、霊能者でしょう」
雅功さんが言うと、マイクロバスの中はシンと静まり返った。
「でも、やるしかないやん、雅功はん」
麗華さんが振り返ってニッと笑った。雅功さんは微笑み返して、
「そうですね。弱気は禁物ですが、気を引き締めていきましょう」
いよいよ最後の戦い。最後? その単語に一番怯えてしまうまどかだった。
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