気がついたら、師走だったのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 長かった上田親子との戦いもようやく決着した。


 博行の父親の俊彰は情けない事に椿直美先生の美しさに惑わされ、思うように戦えなかったらしい。


 それを聞いた博行の母親の桂子は、呆気に取られたそうだ。


 男と言う生き物は、どれ程の年を重ねても、そんなものなのだろうか?


 私の彼の江原耕司君も、非常に心配だ。


 但し、一つ望みがあるとすれば、お父さんの雅功さん。


 類い稀なる紳士的な立ち居振る舞いで、全く男の情けなさを感じさせない。


 江原ッチがエロに惑わされるのは、若さ故だと思いたい。


「雅功も、若い頃は似たようなものです。結婚してから落ち着いたのですよ」


 私の心の声を聞きつけた江原ッチのお母さんの菜摘さんが教えてくれた。


「そうなんですか」


 ここぞとばかりにお題目を唱えた。


「そんな事をまどかさんに告げ口しなくてもいいだろう?」


 雅功さんは汗を掻いて菜摘さんに抗議した。


 いつも冷静沈着な雅功さんとは思えない慌てぶりに私は噴き出してしまった。


「あら、私は嘘は吐いていないわよ」


 菜摘さんが楽しそうに言うので、雅功さんは肩を竦めて、


「そうだね」


 降参というポーズで、邸の中に入って行ってしまった。


 上田親子は、雅功さんと菜摘さんのお師匠様である名倉英賢様の所に送られるようだ。


 心配なので、道中は雅功さんも同行し、その上出羽のスケベ修験者である遠野泉進様も一緒に行くらしい。


 私の想像だが、泉進様は恐らく椿先生に会いたいのだと思う。スーパーヒ○シくんを賭けてもいい。


「これで万事解決だね」


 江原ッチが嬉しそうに言うと、


「そうでもないのよ。まだ疑問が残っているの」


 西園寺蘭子お姉さんが深刻な顔で言ったので、私達はドキッとしてしまった。


「闇の仏具を造ったのが誰なのかまだわからないのですね?」


 綾小路さやかが言った。蘭子お姉さんは頷いて、隣にいる小松崎瑠希弥さんを見た。


「そうなの。最初は全ての元凶である内海帯刀の手によるものと思ったのだけれど、どうも違うのがわかってきたの」


 瑠希弥さんも深刻な顔だ。私はさやかと顔を見合わせた。


「それは私の一族も祖父の代から疑問でした。内海帯刀は確かに相当な術者でしたが、闇の仏具はいずれも帯刀の造った物ではないのです」


 かつては戦った事がある神田原明鈴さんが口を挟んだ。


「明鈴さんのお祖父さんと言えば、神田原明丞氏ですが、確か英賢様の一番弟子ですよね?」


 蘭子お姉さんが明鈴さんを見た。明鈴さんは頷き、


「はい」


「その明丞さんが知らないとなると、闇の仏具は一体いつ造られて、どうやって帯刀の手に渡ったのか、ですね」


 蘭子お姉さんは腕組みをし、考え込んだ。


 もう私には難し過ぎてついていけない話題だ。


「情けないわね」


 さやかに半目で見られてしまった。


「私達はその謎を探るためにしばらく旅に出ます」


 蘭子お姉さんは菜摘さんを見て告げる。菜摘さんは頷き、


「わかりました。私と雅功は、英賢様と泉進様がいらっしゃるまで、上田桂子を問い詰めてみます」


 こうして、蘭子お姉さんと瑠希弥さん、そして明鈴さんとその娘である明蘭さんは、闇の仏具を造った者を探すべく、出発の準備に入った。


「ウチを除け者にせんといて!」


 蘭子お姉さんの親友である八木麗華さんが慌てて四人を追いかけた。


「俺達はどうしようか?」


 江原ッチが菜摘さんに尋ねた。すると菜摘さんは私達を見渡して、


「あなた達は学生の本分に戻りなさい。もうすぐ、期末テストでしょ?」


 その言葉に私は一気に現実に引き戻された。


 ふと周りを見ると、顔を引きつらせているのは、私の他には、肉屋の力丸卓司君と親友の近藤明菜の彼氏の美輪幸治君だけだった。


「何で焦ってるの、まどか? 期末テストなんて、ずっと前からいつあるのかわかっているでしょ?」


 さやかがニヤニヤして言う。こういう時には、明菜も助けてくれない。


「僕も心配だな」


 まだ中学生の坂野義男君が呟くと、


「大丈夫。わからない事は全部私に訊いて、義男君」


 気功少女の柳原まりさんが微笑んで言った。


「羨ましい……」


 つい、口にしてしまった美輪君はハッとして明菜を見たが、


「美輪君もわからない事は私に訊いてね」


 明菜も微笑んで応じる余裕を見せた。絶対無敵レベルのまりさんが相手だと、明菜は冷静だな。


「まどかりん、俺がサポートするから、安心して」


 江原ッチはそう言いながらも、まりさんを見ているというお約束をしていた。全く!


「俺は留年しちゃうかも」


 勉強が苦手なリッキーはお気楽発言をしたが、


「ダメよ、リッキー。私が勉強を教えてあげるから」


 江原ッチの妹さんの靖子ちゃんが言った。リッキーはヘラヘラ笑って、


「デヘヘ、ありがとう、靖子ちゃん」


 リッキー、中学生の靖子ちゃんに高校生の貴方が勉強を教わるなんて、恥ずかしい事なのよ。


 自覚ないの?


「大久保君は大丈夫かしら?」


 さやかが呟いたのを私は聞き逃さなかった。


「彼、勉強は苦手だもんね」


 ここぞとばかりに攻め込むと、


「う、うるさいわよ!」


 さやかは顔を赤くして口を尖らせた。可愛いんだから。


「そろそろ素直になりなさいよ、さやか。応援するから」


 私は真顔で言った。するとさやかは目を見張って、


「ホント?」


「もちろんよ。私達、親友でしょ?」


 ニコッとして言った。さやかが涙ぐんでいる。


 只、大久保君は断わると思うけど。


「あんたねえ!」


 さやかはムッとして私を睨んだ。


 


 テストの結果次第では、上田親子より怖い存在になると思われる我が母の事を想像し、身が引き締まるまどかだった。

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