また学校の怪談なのよ!(中編)

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 私が通うM市立第一高校の体育館で怪異が起こった。


 女子バスケ部の一年生部員が三人転んで怪我をした。


 現場に駆けつけた私と綾小路さやかは、すぐさまそれが呪詛によるものだと見破ったが、その呪詛をかけた人は、転ばせる程度のものをかけていた。


 誰かが介在し、呪いのレベルを上げてしまったのだ。


 それでも、三人が捻挫ですんだのは、彼女達に潜在的な霊能力があり、危険を察知していたからだった。


 呪詛がかけられた場所を浄化した私とさやかは、呪詛を増幅させた犯人を辿るため、体育館に結界を張ってくれた元ボクっ娘で、今は超絶美少女の柳原まりさんと共に気の乱れを探った。


 私達には感知し切れない微かな揺れをも見極めてしまうまりさんが、体育館を出るなり、


「乱れを修正されてしまったみたい。相手に気づかれたわね」


 私達は足止めをされてしまった。


「仕方ないわ。呪詛をかけた人を探しましょうか」


 さやかが言った。


「そうなんですか」


 ここぞとばかりに世界の平和を導くお題目を唱えた。またさやかの視線が冷たい。


「それ、何?」


 まりさんは不思議そうな顔で私を見た。


「気にしないで」


 もう苦笑いするしかない。ところがその時、始業のチャイムが鳴ってしまった。


「取り敢えず、呪詛は消したから、大丈夫よ。それから、まりさんの結界があるから、もう呪詛は仕掛けられないし」


 さやかにそう言われ、私は納得し、教室に戻った。


 もちろん、体育館にいた生徒達のケアもしてからよ。


 ところで、介在とケアって何?


 


 呪詛の主の事が気になってしまった私は、先生に注意ばかりされてしまった。


 恥ずかしい思いをしたので、ようやく授業に集中できた。


 さやかの哀れむような視線が痛かったけど。


「どうしたんだよ、箕輪? 何かあったのか?」


 休み時間になった時、クラスメートの大久保健君が声をかけてくれた。


 途端に大久保君に好意を寄せているさやかの嫉妬の炎が巻き起こるのを感じた。私は苦笑いして、


「ちょっとね。体育館で事件があったのよ」


 大久保君は大きく頷き、


「ああ、バスケ部の女子達が捻挫したって話だろ? 箕輪とサーヤさんで解決したんじゃないの?」


 思わぬ言葉を聞き、さやかの顔が真っ赤になり、また私を睨みつける。


『まどか、あんたのせいで、大久保君まで私の事をサーヤって呼ぶじゃないの!』


 いや、あだ名で呼んでもらえるって、いい事だと思うけどな。


 だが、さやかの視線の強烈さはそうではないのを物語っていた。


 そんなに嫌なのかな、「サーヤ」って呼ばれるのが?


「あれ?」


 ふと気づくと、いつの間にか、さやかは呪詛者の探知を開始していた。


 霊能力総合ではさやかはまだ私の遥か上位なのだ。


「まどか、わかったわ、呪詛者が」


 さやかは視界に大久保君を入れないように私を見たので、妙な向きになっている。


「行きましょう」


 私はまりさんにも目配せして、教室を出た。まりさんには呪詛者の呪詛をレベルアップさせた黒幕を探って欲しいから。


 私達は廊下を進み、階段を上がる。そのままドンドン上がり続けると、三年生の教室がある三階に出た。


 さすがに受験生なので、廊下で雑談をしている人達は全くいない。


 第一高校はG県では上から数えた方が早い進学校だ。


 東大・京大にも少ないながらも合格している人達もいるのだ。


「この階じゃないわね」


 さやかは言い、更に階段を上がる。そこは屋上へと続く階段だ。


 この学校の屋上は、通常は出入りできないように鍵がかけられているが、どうやら呪詛者はその鍵を自由に扱える立場の人のようだ。


「私達に気づかれたのを悟って、隠れたつもりみたいだけど、まさに頭隠して何とやらね」


 さやかは肩を竦めて屋上への扉を開いた。


 呪詛者はそこにいた。


 屋上の西の端に立っている。元生徒会役員の女子だ。そして、元女子バスケ部の部長。


「そこで何をしているんですか、遠藤千秋さん?」


 さやかがいきなりフルネームで声をかけたので、遠藤さんはギクッとして振り返った。


「どうして私の名前を……」


 そう言いかけて、苦笑いした。


「そっか、貴女達があのG県警霊感課の捜査員なのね」


 遠藤さんは言い逃れをするつもりはないようだ。彼女自身、一年生女子が三人も捻挫したのを知り、驚いているようだ。


「一つお訊きしたい事があるんですけど」


 私は遠藤さんに歩み寄りながら言った。遠藤さんはフェンスに寄りかかりながら、


「何?」


 私は一瞬とても嫌な感覚に囚われた。何だろう?


「まどか!」


 その時、さやかが叫んだ。そしてまりさんが走り出した。


「え?」


 遠藤さんを見ると、身体が浮き上がっているのがわかった。そして同時に彼女の背後にあるフェンスがグニャッと曲がり、ねじ切れていくのもわかった。


 何が起こっているの?


「はああ!」


 まりさんは一瞬にして気を高め、屋上の外へと弾き飛ばされそうになっている遠藤さんをその気で捕えた。


「いやああ!」


 遠藤さんはようやく自分に何が起こっているのかわかったらしく、絶叫した。


「まどか、いくわよ!」


 さやかが印を結んで言った。私は頷き、印を結んだ。


「オンマカキャラヤソワカ」


 二人で同時に大黒天の真言を唱え、遠藤さんを屋上から地面に落とそうとしている邪悪な気を吹き飛ばそうとした。


「は!」


 大黒天真言が到達する前にその気はスウッと消失してしまった。遠藤さんは気を失い、ドサッと倒れてしまった。


「また逃げられたか。どういうつもりなのかしら?」


 さやかが周囲を見渡しながら呟く。するとまりさんが、


「大丈夫よ、さやかさん。どこにいるのか、はっきり掴んだから」


 その言葉に驚き、私とさやかはまりさんを見た。


「次は逃がさない。もう誰なのかわかったから」


 まりさんは西の方角を見て言い切った。


 微かだが、そちらに気の乱れが感じられる。


 しかし、それは屋上からほんのわずかな距離しか感じられない。


「許せないわ。自分の都合だけで気を悪用する人間は」


 まりさんの足元のコンクリートの床に浅く亀裂が走った。


 まりさん、怖いんですけど。


 


 次こそ、黒幕退治をしようと思うまどかだった。

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