また学校の怪談なのよ!(前編)
私は箕輪まどか。高校生の霊能者。
先日、G県最大の予備校で、心霊事件が起こった。
背後には邪教集団だったサヨカ会の残党の影がちらついていたが、我がM市立第一高校の前生徒会長だった上田博行とその母である桂子の親子は関わっていなかった。
尊敬する西園寺蘭子お姉さんと関西のおばさんである八木麗華さんは、かつてサヨカ会の本部があった富士山麓に調査に行っていた。
何となく恐ろしい事が起こりそうな予感のまどかである。
予備校の事件から数日後。
私達は平穏な毎日を送っている。
あれから妙な事は起こらず、小松崎瑠希弥さんと神田原明蘭さんの美人コンビは学校に来なくなるという。
「サヨカ会が何かを仕掛けようとしても、何もできないから安心して。小さな怪異はあるかも知れないけど」
瑠希弥さんは笑顔全開で言った。
「おお!」
私の彼氏の江原耕司君、そして、親友の近藤明菜の彼氏の美輪幸治君、更に江原ッチの妹さんの靖子ちゃんの彼氏である力丸卓司君がデレッとした。
「美輪君」
明菜がどんな幽霊もまさしく裸足で逃げ出すような冷たい声で美輪君の背後に立った。
「ひいい!」
美輪君は本当に冷凍されたかのように動かなくなった。
「江原耕司君、後でお話があります。力丸卓司君、靖子ちゃんにはメールしました」
私は江原ッチとリッキーに絶対零度攻撃を仕掛けた。
「ひええ!」
江原ッチとリッキーも凍りついたように動かなくなった。
少しは学習しなさいよね、三バカ!
瑠希弥さんと明蘭さんが学校を去ると、一気に張りつめていた清浄な気がフワッと緩やかになった。
私達はそれぞれの教室に戻った。
私や江原ッチはもちろんの事、あの複合真言を使いこなした綾小路さやかですら、そこまでには到達していない。
「さすがね、瑠希弥さんと明蘭さん。私もまだまだだわ」
今日はいつになく謙虚なサーヤである。
「だーかーら!」
ムッとした顔で私を睨むが、その向こうに気になる男子である大久保健君がいたので、慌てて俯いた。
「まどか、大久保君にばらしたら、酷いわよ!」
さやかは印を結んで私を脅かして来た。もちろん、本当に唱えるつもりはないだろう。
そして、私も大久保君にばらすつもりはない。
「どうも信用できない」
さやかは疑いの眼差しを向けたままで自分の席に着いた。
「箕輪まどかさん、いる?」
そこへ二年生の女子が来た。肩で息をしている。
「はい」
私は挙手をして立ち上がった。すると二年生の女子は呼吸を整えながら、
「体育館に来て欲しいの。もう三人も怪我をしているのよ」
そう言って涙ぐんだ。私はさやかと顔を観合わせた。
その人は、三年性が引退して、新しく女子バスケ部の部長になった関根はるかさん。
朝練でシュートの練習をしていて、一年生が三人ころんで利き足を捻挫したという。
私とさやかは関根先輩について体育館に行った。
「まどか、わかる?」
体育館に入るなり、さやかが囁いた。当然私にもわかっている。
「霊ではないわ。これ、呪詛ね」
私は何者かが体育館の中に呪いをかけたのに気づいた。
ほんの
本来の呪詛は、人が転んでしまう程度のものだった。
それが一歩間違えれば骨折してしまいそうなくらいのものになっているのだ。
三人の被害者に会い、話はしないで気の流れと霊障を見てみた。
すると、三人共、自覚症状はないながらも、霊能力があるのがわかった。
だから、骨折せずにすんだようだ。本能的に危険を察知し、最悪の事態を免れたのだろう。
「問題は呪詛をかけた人ね」
さやかは腕組みをして、周囲を見渡す。今、体育館には数十人の生徒がいる。
女子バスケ部員には、呪詛をかけた気配がある人物はいないのはわかった。
男子バスケ部員にもいない。
体操部にもいない。卓球部にもいない。あれ? 体育館には犯人がいないの?
「そのようよ。これは根深いかもよ、まーどかちゃん」
さやかがニヤリとして言った。その言い方、私が苦手なG県警鑑識課の宮川さんの口調だ。
「あんたが『サーヤ』をやめない限り、私も続けるわよ」
こんな時にそんな事を言い出さなくてもいいと思うのだが。
「呪詛をかけた張本人はそこまでの事になっているのを知らないみたいね。そして、呪詛を強化した者は、どうやら生徒ではないわ」
さやかが小声で言った。さすがさやか。
「取り敢えずは対症療法ね」
さやかと私は、三人が転んだ場所に行き、
「オンマリシエイソワカ」
浄化真言である摩利支天真言を唱えた。
「きゃっ!」
周囲にいた女子バスケ部員が、真言が呪詛を浄化して起こした気流に驚いて悲鳴を上げた。
「体育館全体に結界を張れば、もう呪詛はかけられないわ」
さやかが言うと、
「それならもう大丈夫よ。私が気の結界を張ったから」
気功少女の柳原まりさんが笑顔で入って来た。
「そうなんですか」
ここぞとばかりに幸せになるお題目を唱えた。
まりさんはキョトンとしているが、さやかは白い目をしている。
「気の乱れを辿れば、
まりさんは微笑んで言った。私がもう一度お題目を唱えようとした時、
「そうなんですか」
さやかが私の口を塞いで笑顔全開で言った。ううう! 悔しい!
「あ……」
ところが、体育館を出たところでまりさんは立ち尽くしてしまった。
「どうしたの、まりさん?」
私やさやかには気の乱れはわからないくらい微妙だったので、何が起こっているのかわからない。
気に関しては、恐らくまりさんは瑠希弥さんや明蘭さんに匹敵していると思う。
「乱れを修正されてしまったみたい。相手に気づかれたわね」
まりさんが凛々しい顔で言ったので、私とさやかはそんなつもりはないのに顔が赤くなってしまった。
百合の世界には行きたくはないまどかだった。
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